ピュアダーク
 ──やっとやっとまた近くで会えたのに、伝えたいことは何一つ言えず、サラが側に要る限り、ヴィンセントの前で嫌な態度を取ってしまう。

 ベアトリスは泣きそうになる瞳にぐっと力を込めてヴィンセントを見つめた。

 そして勇気を振り絞り抱いていた仮説に触れた。

「私、ヴィンセントが何者でもいいって、そして真実を受け入れる覚悟はできている。あの時気絶する前にみたものがなんであっても私はそれでいいって……」

 ベアトリスは必死だった。慎重に言葉を選び、そしてヴィンセントに言いたいことが伝わるように願いながら、真剣な目をして訴えた。

 だからこそヴィンセントがそれに反応して答えてくれると期待を抱く。

 ベアトリスの言葉はヴィンセントの心に深く届く。

 自分のありのままの姿を受け入れようとするベアトリスに驚きながらも、一番自分が望んでいたベアトリスの気持ちを知って抱きしめたい感情が湧き出てきた。

 しかし、素直に認めることができない。喉から出かけた本心の言葉をぐっと飲み込んだ。

「何を言ってるんだい? やはり、まだ体の調子が悪いみたいだね。そんなときに誘ってしまってほんとごめん」

 できるだけ穏やかに笑顔を浮かべて言ったが、却ってバカにしたような態度に見えた。

 ベアトリスは何かが割れて崩れ落ちるような音を心で聞いた。

 裏切られたような思いに縛られると、気力が抜けていく。

 真剣に考え、ヴィンセントの想いだけを希望のように心で持っていたものが、一瞬にして消えてしまった。

「そっか、私が一人で勝手に想像して考えていたことだったんだ。ごめん、それこそ、何を言ってるかわからないね。私の独り言だと思って。ほんとにごめん」

「ベアトリス……」

 ヴィンセントはベアトリスに触れようと手が勝手に伸びていた。

 口は嘘をついても、本心は体に正直に命令する。

 寸前のところでサラが彼の腕を掴んでやめさせた。

 ヴィンセントははっとしてぐっと体に力を込めて、感情を処理しようと必死にもがいていた。

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