ピュアダーク
「ああ、この場合、天上人の力を手に入れたい邪悪な者のことになるかな。天上人は永遠の命を持ってるんだ。だけどこの地上に降りてここで生活すると命の長さは一般の人間たちと変わらなくなるらしい。でも天上人は天上界と地上を行き来する力を持ってるから、それを邪悪な者が奪ってしまうと、力を得てこの地上だけではなく天上界も支配して世界は破滅…… ってことになるんだって。なーんて、よくある神話だけどね」

「もしその話が本当だとしたら、この世の中には、天上人、力を与えられたもの、普通の人間、そして邪悪な存在がいるってことになるね」

 ベアトリスの話の飲み込みの良さに、パトリックは余計なことを言ってしまったかと、顔色が変わった。

 慌てて誤魔化すために付け加えた。

「そう考えたらなんでもこの世には存在していることになるね。吸血鬼とか妖精とかパワーレンジャーなんかもありかな」

「それじゃ、野獣に変身して、怪物を退治する人もいるかもしれない」

 遠い目になりながら、ベアトリスは呟いた。

 パトリックはこれ以上この話はしてはいけないと、話を変えた。

「あ、そうだ、プロムのドレス、どれにするか決めた? 僕はタキシード、白がいいかな、黒がいいかな、ベアトリスはどう思う?」

「パトリックなら何を来ても似合うと思うけど。ねぇ、あの賭けのこと覚えてる?」

「えっ?」

「私、賭けをする。もし、ヴィ…… あの人が他の誰かを誘ってプロムに来たら諦める」

「ど、どうしたんだい急に」

「ちょっと、なんかもう疲れちゃっただけ」

 忘れたい、全てのことから逃れたい。

 その一心でベアトリスは忘れるきっかけを無理に作ろうとしていた。

 パトリックはベアトリスの決断に驚き、暫く動けなかった。

「パトリック、なんか焦げた匂いがする」

「うわぁ、いけねー」

 パトリックは慌てて、オーブンを開け素手で中のものを取り出そうとした。

「パトリック、何やってんの、火傷しちゃうよ」

 ベアトリスがナベつかみを差し出す。

「あっ、そうだった。ありがとう」

 かなり動揺し、鼓動もバクバクとしては取り出したディッシュを持つパトリックの手は震えていた。

 その隣でベアトリスは魂を失ったように無表情で夕食のおかずを見つめていた。


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