ピュアダーク
「パトリックは不思議に思わないの? 親が勝手に結婚相手決めるんだよ」

「僕は君のこと好きだったし、今も大好きで結婚するつもりでいるもん」

「でも婚約証明書を破ってそれはもう無効になったはずでしょ」

「だからあの紙切れはいらない。大切なのは二人の気持ちだろ」

「でも、私はまだ結婚だなんて考えられない」

「いいんだって、まずは結婚してからゆっくり考えれば」

「えっ、ちょっと待って、そんな考え方あり?」

「うん」

 ベアトリスはパトリックの強引なまでの前向き発言にやり込められそうになってしまった。

 拉致があかないと、これ以上この話をするのをやめた。

 しかしベアトリスは過去のことに拘っていた。

 全く思い出せないことに益々疑問を抱いてしまった。

 ──私には一体どんな過去があったんだろう。思い出したら何かが変わるんだろか。

 ベアトリスは思いつめた顔をして鉛筆の端を軽く噛んでいた。

 そしてふと台所のシンクの隣のカウンターに目を移すと、そこに青緑色のガラスの壷が隅にあることに気がついた。

 ──あれっ? アメリアの部屋にいつもある壷だ。

 ベアトリスは何気なくそれを見ていた。

 しかし次の瞬間、目が丸くなった。

 空の壷の中でごぼっと大きな水泡が現れ突然水が湧き出てきたからだった。

 ぼっーっとしてた一瞬の出来事だったために、それが元から水が入っていて見間違えたのかよくわからない。

 暫く眺めていたが、それ以上の動きはなかった。

「ベアトリス、どうかしたのかい?」

「えっ、なんでもない。ちょっとぼーっとしてただけ。なんかもう疲れちゃったから、今日は寝るね。パトリック付き合ってくれてありがとう」

 ベアトリスはテーブルの上の片づけをしながらもう一度壷を見ると、真珠のような飾りがぼわっと神秘的に光ったように見えた。

 その光に魅了されるようにベアトリスは我を忘れて壷の側まで行き、無意識に人差し指で触れた。

 その時静電気に触れたようにビリリとショックを感じると同時に映像が一瞬フラッシュした。

 パトリックが異変に気がつき、壷を詮索されてはまずいと慌ててベアトリスに近づいた。

「ベアトリス、何してるんだい」

「えっ、なんでもない。それじゃおやすみ」

 ベアトリスは逃げるようにその場を後にする。

 部屋に入りパタンとドアを閉め落ち着こうとするが、脳裏に浮かんだ映像が頭から離れなかった。
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