ピュアダーク
 ちょうどシャワーのお湯が出る音が家の中で響いた。

 今がチャンスとばかりに黙ってパトリックの部屋に入る。

 電気はついたままだった。

 今度は悪いことをしている認識が強く心臓が高鳴った。

 辺りを見回すがどこにもあの壷は見当たらない。

 しかし机の上に目が行くと、視線がそこに集中した。

 結婚式に関する雑誌、衣装のカタログ、そして招待状の見本が置かれていた。

 ──なんでこんなものがここにあるの?

 何気なしに手に取ると、その下から書類もでてきた。

 それは公式文書でパトリックの両親が未成年の息子の結婚に同意すると書かれていた。

 それだけではなかった。

 もう一枚同じようなものがアメリアの署名入りであった。

 ──これって、どういうこと? パトリックと私が結婚するってことなの? 反対していたアメリアもどうして同意書なんて作るの。

 ベアトリスは手に取ったものを元の場所に置き部屋を飛び出した。

 そしてアメリアのドアを息を呑みながらノックした。

 裏切られた気持ちで体が震える。

 アメリアの許可で部屋に入れば、アメリアはベッドの上で本を手にしていた。

 それを手元に置いてベアトリスを見つめる。

「どうしたの? 何か用?」

 ベアトリスは感情のままにここまで来たが、頭の中が整理できないまま、何をどのように聞いてよいのかわからないでいた。

 側で何かが光ったように感じ、ふとそちらに目を向けると、そこには さっきまで台所にあったあの壷が置かれていた。

 そしてその時また水泡がぼこっと現れ、先ほどよりも水かさが増えたのを今度はちゃんとした意識の中で目撃した。

 驚きはストレートに顔に出たが、声は出ない。

 不思議そうにアメリアがベアトリスを見ている。

 ──私の知らない何かが起こっている。そして二人はそれを隠している。

 そう確信したとき、背中に冷たいものがすーっと通り抜け、ベアトリスは急にアメリアとパトリックに不信感を抱いてしまった。

 信じていたものが一瞬にして崩れ去っていく。

 自分の疑問をぶつけたところできっとまともに答えてもらえず、はぐらかされると思うとこの場は知らないフリをする方が賢い選択だと思えた。

 ぐっと体に力を入れて平常心を装う。

< 298 / 405 >

この作品をシェア

pagetop