ピュアダーク
 次の朝、いつもの時間になってもベアトリスが中々起きてこない。

 寝坊だと思い、パトリックは部屋をノックする。

「ほら、いつまで寝てるんだ。学校に遅れるぞ」

 しかし反応がない。

 パトリックは寝起きのベアトリスにいたずらでもしてやろうと笑みを浮かべてドアを勢いよくあけた。

「まだ起きないのか…… あれっ、いない。ベアトリス? どこにいるんだ?」

 バスルームを覗いても居間を覗いても、アメリアに聞いても家の中にはベアトリスの姿はなかった。

「一体どうしたんだ。昨晩ベアトリスと何かあったんですか」

 パトリックがアメリアに聞いた。

「そう言えば、何かを言いに来たけど、話したいこと忘れたとかいって何も聞いてないわ」

 ──まさか、あの壷を見て何かに気がついたのでは……

 パトリックは不安になり車のカギを手にすると外に飛び出した。

 学校の通学路を車で走り、ベアトリスを探す。

 学校の近くまで来たとき、ベアトリスが歩いているのを見つけた。

 車を止め、慌てて外に飛び出して走って追いかけた。

「ベアトリス!」

 パトリックに呼ばれてベアトリスは振り返った。

「パトリックどうしたの?」

「どうしたもこうしたもない。どうしてそんなに早く黙って学校に行くんだ」

「えっ、遅れるよりいいじゃない。それに私が何時に学校行こうとパトリックには関係ない。どうしてこんなことも好きにできないの?」

「何かあったのか?」

 ベアトリスはパトリックの質問に顔を背けた。震える声で戸惑うように訴える。

「私、一人になりたいの。パトリックももう迎えに来たりしないで。少し放っておいて欲しいの」

「僕、なんか気の障ることしたのか。そうなら謝る。だから……」

「違う! そんなんじゃない。私、少し一人で考えたいの。自分でいろんなことを決めたいの。人に決められるのなんてもう嫌! 結婚も、人生も!」

 その言葉はパトリックの胸を貫いた。

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