ピュアダーク
 ベアトリスは振り返りパトリックの目を見つめた。

 青い瞳が揺らいでいる。

 動揺、恐れ、苦痛、不安が交じり合いながら、その瞳の奥は何もかも見てきたと物語っていた。

 それは真実を見た目。

「パトリック、いつか本当のことを話してくれない? あなたは何かを知ってるんでしょう」

 そういい残すと、ベアトリスはパトリックを置き去りにして学校に向かって歩き出した。

 パトリックはベアトリスの言葉に動揺してその場で金縛りにあったようになっていた。

 確実に何かに気がついてると確信した。

 だが彼女をこのまま放っておくわけにはいかない。

 なんとかしなくては ともう一度ベアトリスに近づく。

「ベアトリス待って」

 先走る不安は言葉よりも行動を起こさせる。

 パトリックは失うのを恐れ、思い余って力強くベアトリスを後ろから抱きしめてしまった。

 そしてとうとうこれ以上隠せないと気持ちをぶつけてしまった。

「いつか、いつか時がきたら、必ず君に何もかも話すと約束しよう」

「パトリック……」

 離すまいとパトリックの腕は強くベアトリスの体を締め付ける。

 パトリックの抱きしめる力強さはその真実の大きさを知らされているようだった。

 それはとてつもなく大きな衝撃的なもの──。 

 自分で言い出したとはいえ、普段冷静さを欠かさないパトリックの取り乱した行動はベアトリスを不安に陥れた。

「僕は君を守りたくて、君を幸せにしたくて、ついやりすぎてしまったかもしれない。でも子供の頃から君の事がずっとずっと好きで、その気持ちには嘘偽りはないことだけは忘れないで欲しい。君を失うのだけは絶対いやだ。君が無理やり連れて行かれて引き離されたあの日のように、僕の前から二度と消えないで欲しい」

 苦しくなるほどのパトリックの想い。

 ベアトリスはその重さに耐えられず飲みこまれてしまいそうだった。

「私、そろそろ学校に行くね。レポートの提出期限が迫ってるんだ。その資料をロッカーに置いたままだから、早くしあげないと。また後で」

 這い出すようにベアトリスはパトリックの腕を振り払い、走って学校に向かった。

 レポートの提出など全く嘘だった。

 その場を逃げるための都合のいい理由にすぎなかった。

「ベアトリス……」

 パトリックの胸は張り裂けんばかりだった。

 ベアトリスが何かに気がつけば、それが危険なことに繋がると充分パトリックは知っていた。

 ベアトリスの耳にパトリックの言葉がいつまでも残る。

 何かを隠していることだけは確かだったと思うと、真実が自分の手に負えない大きさに思え、この時になって真実を知ることに怖気ついてきた。

 自分がどうあるべきか、何をしたいのか、それを知った後、自分はどうなるのか、強くパトリックに抱きしめられたことでそれと向き合うことに覚悟を決めろと警告を発されたようだった。

 ベアトリスはその重みに耐えられず、自分が起こした行動が果たして正しかったのか判らなくなっていく。

 パンドラの箱を開けてしまったようで、自分の行動に責任が取れず動揺しだした。

 パトリックも同様に、感情に押され余計なことを口走ってしまったと、この時になって後悔しだした。

 しかしもう後にはひけない。暫く立ち尽くし、ベアトリスが見えなくなるまで目を潤ませて見つめていた。

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