ピュアダーク
 クラスが始まる数分前、コールはベアトリスの机を見ていた。

 近くにいたアンバーに声をかける。

「お前、ベアトリス見なかったか?」

「また事故にでもあって休んでるんじゃないの」

 アンバーは気分を害して、いやみったらしくつっけんどんに答えた。

「おかしい。朝、廊下で会ったのに、なんでクラスに来ないんだ。どこで何をしてるんだ」

 コールは首を傾げていた。

 ヴィンセントはその会話を耳にして、何かに巻き込まれていないか心配になり、探しに教室を出て行った。

 何も巻き込まれてないとしたら、ベアトリスが行きそうなところに心当たりがあった。

 そしてそこはヴィンセントにとっても特別な場所である。

 ヴィンセントがベアトリスを見つけるのに時間はかからなかった。

 だが容易に近づけない。

 胸を押さえながら、そっとドアを開け覗く。

 ベアトリスが壁にもたれて寝ているのを見つけると、苦しさの中でも、安堵の表情になった。

 ヴィンセントはどうしても側に近づきたくて、ベアトリスが寝ていることをいいことに姿を変えて忍び寄る。

 目は赤く染まり体は黒く光っている。

 口をあければ尖がったキバをむき、野獣の姿にも見え、または絵でよく表現されるような悪魔の姿にも見える。

 しかし恐ろしい風貌でもヴィンセントの美しい顔はそこにも反映されていた。

 ヴィンセントは恐ろしい姿をさらけ出してまでベアトリスの隣に座った。

 多少のリスクはあるが、もしベアトリスが気がついても機敏な動きでそこから姿を消すことは容易いことだった。

 野獣の姿では人間の姿をしているときの全ての能力を遥かに超越する。

 野獣は恐ろしい姿でも絹のように滑らかな繊細な心でベアトリスを気遣う。

 赤くきつい目をしていても、瞳はベルベットのような光沢を帯び優しさに溢れている。

 こういうときでもないと二人っきりになれないと、ベアトリスがこのまま少しでも長く寝てくれることをヴィンセントは願っていた。

 側にいるだけでもささやかな幸福のときだった。

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