ピュアダーク
 ヴィンセントが住宅街を歩き回っていると、暫くして、後ろから声を掛けられた。

 ポールだった。

 だがそれは外面だけで内面はコール。

 まさにこの時探していた人物だったが、ヴィンセントはまだ気がつかない。

「よお、こんなとこで、何、歩き回ってるんだ」

「なんだ、ポールか。ちょっと人探しだ。この辺りで赤毛の怪しげな男は見なかったか」

「は? なんだそれ。そんなの見たことないけど、なんでそんな男この辺りで探してるんだ?」

 場所を特定されたことに多少驚いたが、本人を目の前にばれてないことがおかしく笑いそうになるのをコールは堪えていた。

「ちょっとな」

「ふーん、どうでもいいけどね。それより、お前ベアトリスになんかしたのか。アイツ益々おかしくなってきたぞ。自殺しないように見張っとけよ」

「自殺? どういうことだ」

「お前、気がつかないのか。彼女、かなり精神をやられている。何かに直面して、それから逃げようとしている感じだ。あれ以上問題を抱え込んでしまったら、彼女はつぶれるかもしれない。原因はお前じゃないのか。お前に冷たくされて、ショックとか、それとも他に抱えている問題があるのかもしれないが」

 意味ありげにコールは言った。

 もし自分が原因だったとしたら──。

 ヴィンセントが思い当たるのは真実を受け入れようとしていたベアトリスを否定してしまったことだった。

 ヴィンセントはいたたまれなくなって、顔を背けて歯を食いしばっていた。

「そんなに辛いんだったら、ベアトリスの側にいてやればいいじゃないか(できればだがな)」

 コールは鼻で笑っていた。

 そのとき、後方からリチャードが近づく。

 コールは一瞬ひやりとしたが、リチャードも気がつかないことに気を取り直し小馬鹿にした目つきで言った。

「あんた誰?」

「ヴィンセントの父親です。君はヴィンセントの友達かい?」

「まあ、そういうところかな。同じクラスをいくつか取ってるだけだが。それじゃ俺、帰るな。ヴィンセントまたな」

 コールはリチャードも欺き笑いを堪えて、少し肩を震わせていた。

 リチャードを尻目に得意げに去っていった。

 その後姿をリチャードは鋭い目で見ていた。

 アメリアが言っていた体を少し鍛えた高校生の表現と一致するだけに、怪しく感じていた。

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