ピュアダーク
 帰り支度のために自分のロッカーから荷物を取り出していたとき、後ろから声を掛けられた。

 振り返れば、またあの子が微笑んでいた。

「サラ!」

 そうだこの子、この子が言ったあの言葉の真相を聞かないと。

 ベアトリスの心が一気に跳ね返る。

 一旦夢で片付いた事柄が、また現実へと引き戻され、不安定な心では絶えず考えが変わり一つに定まりきれない。

「ベアトリス様、お時間ありますでしょうか」

 それは願ってもないと、ベアトリスは真剣な眼差しで、即、首を縦に振る。

 サラは飛び跳ねるように「キャー」と喜んだ。

 慕ってくれるのは素直に嬉しいが、積極な性格の裏にきついものも感じていた。

 遠慮なく自分に近づいて来ることで油断させ、その都度計算してから行動するようなどこかずる賢さが見え隠れする。

 味方だと心強いが、敵に回れば手のひらを返すような信用置けない不安定さが、ベアトリスとサラの間にあるようだった。

 もろく壊れやすい関係を懸念しながら、ベアトリスは自分の性格とは全く正反対の年下のサラに少しおどおどしてしまった。

 それを悟られないように、精一杯の笑顔を見せ、ベアトリスはサラについていく。

 学校から数ブロック先のファーストフード店に二人は向かっていた。

 そこにはアイスクリームを使ったデザートが沢山あり、学校帰りの生徒達でいつも賑わっている。

 ダイエット中のベアトリスにはアイスクリームを食べるには抵抗があったが、サラがチョコパフェを注文すると、付き合いと誘惑で同じものを注文していた。

 とにかく今日は特別なんだから。

 ベアトリスは理由をつけて、これから食べるアイスクリームの罪悪感を消そうとしていた。

 窓際の4人がけのテーブルが開いていた。そこで二人は腰を落ち着けた。

 ベアトリスが話し出す前に、サラは一度にこっと笑顔を見せて、自分から朝の話のことを振った。

「私がなぜパトリックのことを知ってるか、気になってらっしゃるんでしょう」

 話をまたそらされるかもと覚悟を決めていたベアトリスは、単刀直入の質問にあっけに取られて、どもって返事をした。

「私、パトリックの友達の友達の友達なんです」

「えっ、友達の友達の友達……?」

 沢山友達が連なって目をぱちくりしたが、直接の知り合いではないがとにかく知っているということかと、まずは大人しく聞くことにした。

< 32 / 405 >

この作品をシェア

pagetop