ピュアダーク
 ヴィンセントとサラが話している様子を仲睦まじくと取らえて、ベアトリスは遠くから隠れるように見ていた。

 ため息が出るが、自分が選んだことの結果であり、ヴィンセントも仲がいい相手ができたことでよかったと納得しようと必死だった。

 ただその相手が自分の良く知る人物なのが複雑なところだった。

 しかし知らない相手であっても同じ気持ちでいただろうと思うと、真実も知らないまま、二人に気がつかれないように歩いていっ た。

 今度はその様子をジェニファーがベアトリスの知らないところで見ていた。

 かつての自分が味わった気持ちをベアトリスが味わっていると思うと、少し気分が晴れる。

 ベアトリスに対しての憎しみもやや和らいでいた。

 それに影響され、ジェニファーに仕掛けられた影も勢いをなくし、ただ大人しくジェニファーの中に滞在するだけとなっていた。

 そして最後にニヤリと笑みを浮かべ、全てを見ていたものがいた。

 ポールに扮したコールだった。

 高校生達が繰り広げるドラマなど何一つ興味がなかったが、ベアトリスのライフクリスタルをもうすぐ手にできると思うと血が騒ぐ。

 ライフクリスタルを手に入れる前夜祭だと、プロムも一騒動起こしてかき乱すつもりでいた。

 人々をパニックに陥れ、自分の欲しいものを手に入れる最高の日になりそうだと笑いが腹からこみ上げてきていた。

「みんなの忘れられない最高の日にしてやるよ」

 コールはそう呟いて、ロッカーの前でリップクリームをつけているアンバーの元へと行った。

 アンバーはロッカーの扉の裏側の鏡を見て、唇を重ねてリップクリームをなじませてるところだった。

 鏡に突然赤毛の男の顔が映りこみそれが近づいてくる。

 誰だろうと後ろを振り返ったときポールが側にいてキョトンとした顔になった。

「なんだよ、俺が側にきちゃ悪いか。気分がいいから折角相手してやろうと思ったのに」

「えっ、何よその言い方。こっちが相手してあげるわよ」

 アンバーは訳がわからないままも、つい素直になれずに意地を張る。

 その時は深く鏡に映っていた人物について追求しなかった。

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