ピュアダーク
 同じ頃、ヴィンセントもまた、挑むようにこの日を迎えた。

 冷蔵庫をあけ、にんじんを手に取りそのままかじって食べだした。

 それをリチャードがからかった。

「滅多に生でかじったこともないにんじんなんか食べて、今日はそれだけ特別だってことか。だけどプロムデートは誰を誘ったんだ。それとも誘われて断れなかったんじゃないのか。お前がベアトリス以外の女性を誘うこと自体考えられない。こんなパーティに参加しようとするのもなんかお前らしくないというのか……」

「うるさいな。放っておいてくれ」

「まさかお前、よからぬ事を考えてないだろうな。要らぬことを言われたらすぐにそういうのがお前の癖だ」

 ヴィンセントはさすが自分の父親だと思った。

 読みが鋭い。

 しかし気づかれてはまずいとひたすらにんじんをバリバリ食べだした。

「腹が減ってるんだよ。いつもこの冷蔵庫の中はろくなものがはいってないじゃないか。そんなこと言う前に何か食べられるものでも買って入れておいてくれ」

「そう言えばその通りだ。すまん。この家は家具もないし、本当に何もないところだ」

 話が違う方向に行ってヴィンセントはほっとした。

「今日は俺、遅くなる。友達と朝まで騒いでくる」

「ああ、わかってるよ。プロムはそういう夜だ。だが、プロムデートには紳士的にするんだぞ。まあお前はそんなことないと思うが」

 ヴィンセントはなんて答えて言いか判らず、ひたすらにんじんをかじっていた。

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