ピュアダーク
「ベアトリス、会場に着いたよ。なんだか僕も緊張するよ」

 パトリックがホテルの駐車場に車を停める。

 辺りは同じように駐車し、車から出てきた着飾ったカップルが駐車場の暗いコンクリートの建物の中で花を咲かせたように目立っていた。

 パトリックが先に車を降り、助手席に回るとベアトリスの車のドアを開け、手を差し伸べた。

 ベアトリスは彼の手を取り、覚悟を決めたように、力を入れて立ち上がった。

 二人が会場に向かって歩いていると、後ろから声を掛けられた。

「よぉ、ベアトリス! へぇ、なかなか、いかしてるじゃないか。いつものお前じゃないな。最後の…… いや最高の日にふさわしい艶姿だぜ」

 ポールの皮を被ったコールだった。

 隣でアンバーが露骨に気を悪くしていた。

 早く行こうと催促するが、コールはベアトリスの側から離れたくないと、一緒に行動をしようとした。
 
 これにはアンバーだけでなくパトリックも驚く。

 ベアトリスの手を握り、急ぎ足になった。

 それでもコールはぴったりとついてきた。

 そしてホテルの会場の入り口に来たときだった。

 ベアトリスが目を見開いて突然立ち止まった。

 目の前にはアイボリー色のタキシードを来たヴィンセントが、クリムゾンのカクテルドレスを纏ったサラと一緒に会場に入ろうとしている。

 ベアトリスは見なかったことにしたかったのに、パトリックが積極的にベアトリスをそこへ連れて行く。

 ヴィンセントがいることで賭けを思い出させようとしていた。

「パトリック、ちょっと待って。もうちょっとしてから会場に入ろう。今はその……」

 ベアトリスの言葉など耳に入ってないように、パトリックはサラに声をかけた。

「やあ、サラだったよね。君も来てたんだ」

 その言葉でサラとヴィンセントは振り返る。

 サラはパトリックの姿に惚れ惚れするような表情でにこやかになり、ヴィンセントを放っておいて、パトリックの側に寄って話しかけた。

 ヴィンセントは少し離れてベアトリスの姿に暫し見とれていた。

 だがベアトリスはヴィンセントから目を逸らす。

 その後ろでコールが待機していた。

 アンバーは何が起こってるのかわからずそれぞれの様子を唖然とみていた。

 ヴィンセントがベアトリスに近づくと、パトリックは顔をしかめた。

──なぜヴィンセントがベアトリスに近づけるんだ。

 パトリックは辺りを見回すと、アンバーの存在に気がついた。

 アンバーが嫌な顔をしているのを見て、ベアトリスのシールドに影響を与えていると思い込んで しまい、本当の原因がサラだとはこのときまだ気がつかなかった。

「ベアトリス、とても美しいよ。あの時の白いドレスもよかったけど今日のドレスもかわいいね」

 ヴィンセントが優しく微笑んで語った。

「あの時の白いドレス?」

 ベアトリスは、はっとした。

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