ピュアダーク
「ヴィンセント、気合を入れないといけないわよ。ベアトリスは本気でパトリックのことを考えているわ」

「えっ、どうしてそんなことがわかるんだ」

「ポールとかいう人の言葉に挑発されて、必死にそうじゃないと打ち消そうとしてる。目立つことが嫌いなベアトリスが自分からダンスホールにパトリックを連れて行ったのよ。これって、それだけムキになってパトリックとの関係を深めようとしてるっていうのがわからないの」

 ヴィンセントは言葉を失った。

「だけど、あのポールって人、なんか怪しい。なんだろう、あの人、妙にベアトリスに絡んでくるというのか、ただの意地悪ってだけじゃない感じがする」

「あいつ、昔はあんな奴じゃなかった。太ってて自分に自信がなくて大人しかったのに、急に別人になっちまいやがった」

「だけど、今はあいつのことを議論してる場合じゃないわ。勝負はこれからよ。それに今が飲み物に睡眠薬を入れるいいチャンス」

 サラはホテルのスタッフに手を上げると、新しい飲み物を持ってこさせた。

 テーブルに赤いカクテルを思わせるような飲み物の入ったグラスが置かれた。

 ヴィンセントは辺りを見回し、ばれないように気を配りながら、パトリックとベアトリスのグラスにサラが薬を入れるのを手助けした。

 薬は赤い液体の中で怪しく混ざり合う。

 ヴィンセントとサラにだけ毒薬の様に見えた。

「後はあの二人がこれを飲み干すように仕向けないと」

 サラがそう言うと二人はグラスを静かに見つめていた。

 ベアトリスはパトリックをダンスに誘ってみたものの、どうしていいのかわからなかった。

 焦りながら気まずい思いを抱き、苦笑いして誤魔化していると、パトリック が大丈夫だと微笑み、ベアトリスの腰に手を回し体を左右にゆっくりと動かした

「僕の腰に手をまわして、僕に合わせるように体を動かしてごらん。それだけで踊ってるように見えるから」

 背筋が伸びたパトリックは優雅に体を動かす。

 踊ることよりもベアトリスと二人で密着して向かい合ってることの方が嬉しいとばかりに笑っていた。

 パトリックの笑顔にベアトリスも次第とリラックスしていく。

 ──パトリックに合わせてついていけば本当に楽だ。

 そう思ったとき、またコールがアンバーと踊りながらわざと絡んできた。

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