ピュアダーク
「さっきは変なこと口走ってすまなかったな。あまりにもベアトリスがじれったいから、つい意地悪してしまった。だけどあんたはなんでベアトリスが好きなんだ。彼女に隠された魅力でもあるのか。例えば自分の利益になるとか」

 ニヤリと意地悪い笑みを浮かべてパトリックを挑発する。

「君は謝りながらも、とことん失礼な奴だな。君の質問に何一つ答える義務はない」

「まあ、いいさ。ベアトリス、その男には気をつけるんだな」

「気をつけるのは君のことのようだが」

「それも、そうだ。一番気をつけるのはこの俺様だ。そうだった。ははははは」

 コールは愉快とばかりに大笑いする。

 パトリックは頭のいかれた奴だと軽蔑の眼差しを向けた。

 アンバーはコールに合わせながらも、この状況にどう反応していいのかわからず、困惑したまま黙って踊り続けていた。

 ベアトリスは、コールが以前言っていた言葉を思い出し、妙に気になり始めた。

 ──あの人、私のことについて何かを知っていて、そして悩みを解放してやるとか言っていた。こんなにも絡んでくるのは何か意図があってのことなの? だけど利益になるってどういうこと?

 ベアトリスが沈んだ顔になっているのをパトリックが気づくと踊るのをやめた。

「大丈夫かい。僕が無理に頼んだばっかりに嫌な思いさせてしまったね」

「そんなことない。こんなにきれいに着飾って、パトリックと一緒に来れたんだもん。よかったと思ってる。パトリックは頼れるし、一緒にいてて安心する。本当にありがとう」

 ベアトリスの笑顔を見ると、パトリックは事をはっきりさせたくなり話を切り出した。

「一つ聞いていいかい、ベアトリスが思いを寄せていたのは、あのヴィンセント…… って男なんじゃないかい」

 パトリックは、初めて事実を知ったフリをする。

「もう隠す必要もないから正直にいうと、その通り。でももういいの。私はパトリックの側に居たいから、彼のことはどうでもいいの」

「えっ? それは本当かい」

「うん」

「それじゃ、結婚のことも」

「前向きに考えてる。あっ、だけど、今すぐにはちょっと、まだ高校生だし」

「ああ、式は先でもいい。君が側にずっといてくれるなら」

 あまりの嬉しさに、パトリックは飛び上がって発狂しそうになった。それを必死に押さえるが、顔のにやけが止まらない。

 暫く二人の世界に浸り見つめて突っ立っていると、混み合ったダンスホールでは邪魔だとどんどん端においやられ、仕舞いにはフロアーから追い出されていた。

 二人は居場所がないと笑ってしまい、そして席に戻ることにした。

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