ピュアダーク
 席に戻ると、パトリックはヴィンセントに勝利の笑みをきつく投げかけ、ベアトリスの手を握ってわざと見せ付けた。

 ヴィンセントはパトリックの策に冷静さを失い焦りを感じ、テーブルの下で片足をゆする。

 サラが足で軽く蹴っては落ち着けと牽制していた。

 サラにもこの状況は耐えられない。

 望みの綱はヴィンセントの行動にかかっていると思うと、年下でありながらも司令塔のように指図をせずにはいられなかった。

 ヴィンセントもサラも睡眠薬が入ったグラスに視線を注ぐ。

 早く飲めとどちらも心の中で願っているが、パトリックもベアトリスもそのグラスに見向きもしなかった。

 時間だけが刻々と過ぎ、グラスの氷も溶け出した。

 痺れを切らしたサラは次の作戦を考える。

「ねぇ、乾杯しようか」

 サラは自分のグラスをもちベアトリスに向けた。

「何に乾杯するの?」

 ベアトリスは、ただ合わせてグラスを持つが、あまり乗り気ではなかった。

「とにかくなんでもいいわよ。折角のパーティなんだから」

 サラは無理にベアトリスのグラスに自分のグラスをぶつけ、そしてパトリックにも催促する。

 パトリックも圧倒されて一応グラスを手にして、サラのグラスと合わせた。

 サラはヤケクソになって飲み干すが、ベアトリスもパトリックも唖然とそれを見ているだけで一向に飲まない。

 イラッとしながら、サラはまたヴィンセントの足をテーブルの下で蹴った。

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