ピュアダーク
 パトリックが二人のホテルのスタッフに抱えられ、エレベーターに乗せられようとしているときだった。

 突然ぱっと目が覚め、抱えられている手を払いのけた。

 一瞬のうちに置かれている立場を把握する。

「何をするんだ」

 パトリックは少しふらつきながら、普段見せない恐ろしい怒りの目を側に居たサラに向けた。

「卑怯じゃないか。飲み物に薬なんか入れて、僕を眠らせるなんて。ベアトリスはどこにいる。ヴィンセントは? まさか、あいつベアトリスを眠らせて手を出そうとしてるんじゃ」

 サラは血の気が引いた。

 睡眠薬入りの飲み物を半分しか飲んでないとはいえ、異常な程に効き目が短かったことに計算が狂った。

 サラの誤算だった。

 パトリックはベアトリスと一緒に住んでいる間、ライトソルーションの影響を受けたバスルームで、ベアトリスと同じように表面から吸収していた。

 普通のディムライトよりも摂取量が増え、その能力も増し、薬の効き目も効果が薄れた。

 サラはその場で崩れるように泣き出した。

 何度もごめんなさいと繰り返した。

 パトリックに嫌われてはもうお終いだった。

 パトリックは機転を利かす。

 脅してはいけないと急に優しい態度を見せ、サラに近づき肩に軽く手を置いた。

「サラ、落ち着くんだ。全てはヴィンセントが企んだことなんだろう。君は利用されただけなんだ。ベアトリスはどこにいるんだ。お願いだから教えて欲しい。正直に答えてくれたら僕は君の事を許すよ」

 パトリックの巧みな言葉にサラは呑まれ、部屋のカードキーを渡し、フロアーとルームナンバーを呟いた。

 パトリックはそれを受け取り、エレベーターのボタンを押して、開いたドアに滑るように乗り込み、フロアーのボタンを拳で叩いた。

 上昇する間、フロアーの数字を睨みつける。

 目的の階につくと、ドアが開く前から真正面に立ち、少しの隙間をこじ開けるように飛び出した。

 慌てて、つんのめりそうに走りながら言われた部屋の番号を見つける。

 そしてカードキーを差込み、部屋に入り込んだ。

< 347 / 405 >

この作品をシェア

pagetop