ピュアダーク
「まあ、みてなって。さてこの体ともお別れか。まあ今となってはそんなに悪くもなかったかな」

「そうだね、なかなかよかったかも…… なんていったら不謹慎かい?」

 マーサは意味ありげな笑いを見せていた。

 ポールの姿はこれで最後と、コールは左手の黒い輪っかのようなものを外し、寝ている本当の自分の腕につけた。

 そのとたんにポールの体から黒い気体のようなものがすーっと出てきて横たわっているコールの体へとすっと入り込んで行った。

 ポールの体は気を失ったようにバタンと床に倒れた。

 その瞬間、寝ていたコールの目がぱっと見開いた。

「コール!」

 マーサが嬉しさのあまり名前を叫んだ。

 ベアトリスは何が起こっているのかわからずに、ただ驚いて息を飲んだ。

 床で転がってるポールが死んだように見えて、怖くなって青ざめていた。

「くそっ、長いこと自分の体を留守してたら、思うように動かせない」

「落ち着きな、コール。すぐ元通りになるよ。慌てることないじゃん」

「マーサ、ベアトリスが退屈しないように、過去の記憶を呼び覚ましてやってくれ」

 マーサは了解と、水晶玉を取り出した。

「あんた記憶をリチャードに塗りつぶされてるんだろ。その闇を取り除いてやるよ。あいつ酷いよな。あんたの両親を殺した上に、過去の記憶を封じ込めちゃうんだから。さすがダークライトの帝王だよ」

「ほんとにヴィンセントのお父さんが私の両親を殺したの?」

「ああ、あんたのボーイフレンドの記憶を見たことがあるんだけど、彼はしっかりその様子を見てた。ついでにあんた、眼鏡をかけた冷たい感じのする女に殺されかけてた」

「えっ、アメリアが私を?」

「とにかくそこのソファーに座りな。あんたかなり色んな奴らにコントロールされてるみたいだね。可哀想に」

 ベアトリスはマーサに体を押されて、よたつくようにソファーに無理やり座らされた。

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