ピュアダーク
 コールと互角に戦うには己の醜い姿をさらけ出すしか方法がない。

 だが、ベアトリスを目の前にしてそれを躊躇していた。

「ヴィンセント!」

 ベアトリスは我慢できずに走り寄り、コールの背中を夢中で叩く。

「マッサージにもなってないぞ、ベアトリス」

 コールは片手でベアトリスを払いのけた。

 ベアトリスは宙を舞うように部屋の隅まで飛ばされ、ドシンと言う音とともに体を強く打って気を失ってしまっ た。

「ベアトリス!」

 ヴィンセントはもうなりふり構っていられなかった。

 全身が黒い塊となり、つりあがった目つきと尖った牙を持つ野獣へと変身する。

 動きに邪魔だと上半身に身につけていたものを引き剥がし、そしてコールの腕を取り、投げ飛ばした。

 コールはくるっと宙を回転してバランスよく着地した。

「とうとう本性を現したか。ダークライトの中でも変身するタイプは数少ないが、野獣になるものは下等でクズだ。その中でも卑しい部類とされている。そんな姿で戦わねばならないほど、お前も落ちぶれたもんだ」

「ああ、笑えばいいさ。こんな姿にならなくても俺は元々落ちぶれた奴さ」

 今度はヴィンセントがコールに飛び掛る。

 二人は取っ組み合い、激しく殴り合う。ヴィンセントは腕を高くあげ爪をむき出しにして降りかかり、コールの胸元を引っ掻くが、コールに避けられ服をかすっただけだった。

 コールは余裕の笑みを浮かべ、ヴィンセントをさらに挑発する。

 ヴィンセントは闇雲にコールにダメージを与えようとするがさっと交わされて無駄な動きが多くなっていた。

 思うように動けないヴィンセントを嘲笑うかのように、コールは素早い動きで後ろに回りこみ、ヴィンセントの首を羽交い絞めにしようとした。

「さっきと同じ手は喰らうか」

 ヴィンセントも機敏に動き身をかがめすぐさまコールの首を掴み床に倒して押さえ込んだ。

 それでもコールはまだ笑みを浮かべていた。

「甘いな」

 コールは足でヴィンセントを蹴り上げ、隙を突いてすり抜けた。

 どちらも引けを取らずに互角に戦う。応戦は暫く続いた。

 携帯電話は破れた服のポケットの中でまだ鳴り響いていた。


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