ピュアダーク
 ベアトリスは意識を取り戻し、頭を押さえながら体を起こした。

 目の前で凄まじい音を立てながら、暗闇の中、二つの影がぶつかり合っているのが見えた。

 フラフラしながら立ち上がり、目を凝らした。

「あれは、あの時見た野獣…… ヴィンセント……」

 ベアトリスは驚きも恐ろしさも何もなかった。やっと真実に向き合えた喜びが心に湧く。

 だが喜んでもいられない。

 二人が戦っている様子はどうみてもコールの方が優勢にみえた。

 ベアトリスは祈りながら、ヴィンセントを見守る。

 ヴィンセントは戦いに慣れてなかった。

 力は互角でも、実践になれたコールの方が技術的に上だった。

「どうした。野獣に変身しても大したことないじゃないか。得意の破壊は使わないのか」

 コールに嘲笑われるが、コールの動きの速さでは破壊力を使っても、狙ったとたんにかわされるのが落ちだった。

 折角の攻撃力を持っていてもコールには通用しない。

 ──親父の言った通りだ。コールの方が断然強い。俺はどうしたらいいんだ。このままじゃ……

 ヴィンセントの息が上がってきた。

 このまま持久戦になれば負けるのが見えていた。

 部屋の隅でベアトリスが祈るように見ている。

 野獣の姿を見ても落ち着いて、心配しているのが伝わってくる。

 ──俺はベアトリスを守る。そのためにこの力があるんだ。

 気持ちを奮い起こし、渾身の力を込めて、捨て身になり接近してコールの攻撃をわざと受け、至近距離から破壊の力を向けた。

 凄まじい青白い光とスパークがコールに向かって行く。

 コールは避けきれずそれを咄嗟に受け止めるしか逃げ道はなかった。

 コールも負けてはいない。打ち消すバリアーを両手から放ち、破壊のパワーと押し合った。

 だがヴィンセントの攻撃力の方が強く、コールは爆発と共に押しやられて壁に叩きつけられ大きくダメージを受けてしまった。

 口から血が流れ体はぐにゃりと床に転がり動かなくなった。

 ──やったか。

 ヴィンセントは息をハアハアさせて身をかがめて立っていたが、コールをやっつけたことに安心してがくっと膝を突いてしまった。

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