ピュアダーク
「ベアトリス…… ごめん、俺、君を救えなかった」

 誰もブラムの前では何もできず、ただその光景を悲痛な思いで静観することしか選択はなかった。

 ベアトリスはヴィンセントの声をキャッチした。

 ありったけの思いを込めてヴィンセントを強く求める。

 ヴィンセントは思い人を呼び寄せる力によって、ベアトリスの側に瞬間移動した。

 ベアトリスを覗き込み、笑みを浮かべて、最後の力を振り絞りヴィンセントはしっかりと彼女を抱え抱き上げた。

「俺にこんな風に抱かれるのが嫌だっていつか言ってたね。でも俺はほんとはあの時こうしたかったんだ。君を大切に抱きかかえたかった」

 ベアトリスは涙を流し、消え入りそうな声で囁いた。

「ヴィン…… セント、あ…… いして…… る」

「俺もだ」

 ベアトリスを抱えながら、ヴィンセントは尻餅をつくように倒れこんでしまう。

 ベアトリスを抱きしめる手は決して放さなかった。

 ベアトリスを胸に抱きヴィンセントは一つになろうと愛しく抱擁する。

 二人は重なったまま静かに倒れこんだ。

 それでも一緒に死ねることが最高の幸せだとでもいうくらい二人は満ち足りた幸福の顔をしていた。

 アメリアはそれを見て泣き叫ぶ。

 怒り狂うほどの炎が見えるくらいの目でブラムを呪った。

 ブラムに近寄り、手を彼の胸の前にかざす。

「私があなたのライフクリスタルを奪ってやる。嫌なら今度は私を殺すといい」

 ブラムはアメリアの手首を握り、その時ばかりは父親らしい目で自分の娘を愛しく奏でるように見つめた。

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