ピュアダーク
「彼の傷口に手をかざすんだ。そして心にイメージしたままの気を込めるといい」

 ブラムに言われて、ベアトリスはその通りにしてみた。

 ぼわっと乳白色の光が傷口を包み込む。

 そして気力が回復されてコールもまた体を起こし、何が起こっ たか手で体のあちこちを触りまくって確かめていた。

「お前もほんと馬鹿だな。殺そうとした俺を助けるなんて」
 
ふんと鼻でコールは笑っていたが、その瞳は優しく輝き、ギラギラしたダークライトの野望が一切消えていた。

 ベアトリスも思考能力が状況に追いつけない。

 キョトンとして自分の両手を見つめ、またブラムに視線を移した。

 ベアトリスの側にヴィンセントが寄ると、リチャードもパトリックも助かってよかったと集まってきた。

 パトリックはヴィンセントの肩に軽くパンチをお見舞いした。

 そしてベアトリスを見つめる。

 二人がお似合いだとパトリックは見守った。

 もう心の整理はできているようだった。

 アメリアはブラムとエミリーを前に、悲しみに明け暮れた顔をして立っていた。

「ダディ」

「これでやっとエミリーと同じ世界にいける。最初からこうすべきだったのかもしれない。だけど私は意気地なしだった。だが、ヴィンセントとベアトリスが死の淵で幸福な顔をしているのを見て思ったよ、死も悪くないってね。もういい加減永遠の命にも飽きてしまった。これ以上君が私より年を取るのも見たくないしね」

「ダディ、ダディ! 私、ダディを愛してる」

「そんなこと判ってたよ、愛しのアメリア。さあ、私の力も弱くなってきた。この世界は崩れる。地上に戻ろう」

 白い何もない空間から、辺りは朝日が柔らかく差し込むあの屋敷の中へと戻っていた。

 そしてブラムとエミリーは地上の時間の流れに溶かされるように、その姿は突然に風化して輝く砂となって床にこぼれていく。

 最後には風にでも吹き飛ばされるかのようにすっと消えていった。

「ダディ、ママ。」

 アメリアは笑顔で見送った。

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