ピュアダーク
「えっ、あのね、シャンプーがなくって、その辺にあったもので洗ったらパサパサに」

「そっ、そう、後で新しいのすぐに用意しておくね。ところで今日学校で何かあった?」

 アメリアが恐る恐る聞く。

「えっ、あっ、あの、火災報知器の誤作動があって、その、少し騒がしかったかな」

 ベアトリスもよそよそしく答える。それ以上のことは話さなかった。アメリアに全てのことを話しても騒ぎ立てるだけで、詳細は不要だと本能でわかっていた。だがアメリアは顔をしかめた。

「それだけ?」

「うっ、うん。そうだけど、どうして?」

「誰かにその髪のことで何か言われなかったかなと思って」

「それなら散々言われたわ。変だって」

 不満が蘇り、ベアトリスの口が尖がる。

「もしかして、ヴィ……」

 アメリアが言いかけて口を噤んだ。

「えっ、何?」

「ううん、何でもない。ちょっと着替えてくるから」

 アメリアは自分の部屋へと向かった。疲弊が猫背から伝わる。足に重りがついてるかのように引きずっているような歩き方だった。

 アメリアは常に背筋を伸ばして、キビキビと歩く。

 疲れている様子などベアトリスは一度も見たことがなかった。

 普段と違うその様子はベアトリスを不安にさせた。

 パタンと奥の部屋のドアが閉まる音が聞こえ、静けさが広がると落ち着かなかった。

 ベアトリスはアメリアの部屋のドアの前に立ち、ノックしようか拳をドアに向け迷った。

 その時、部屋の奥からアメリア以外の声がかすかに聞こえた。

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