ピュアダーク
 ヴィンセントたちが現れたところは湖の側だった。

 そこにはかつて栄えていたと思われる古い城が湖のほとりに建っている。

 辺りの静けさがその城の外見をどこか寂れて物悲しくさせていた。

 古く侵食された茶色い石の塊でありながら、それでも城はそこに建つ限り威厳を忘れていなかった。

 空と湖を背景に絵の中から抜け出す程に美しい姿を見せ付けていた。

「ここは、私がブラムに見せられた場所だわ。確か私が生まれたところだって。どうしてヴィンセントはここに来たの?」

「俺にもわからない。無我夢中で、どこでもいいから移動しようと思ったらここに来ていたんだ」

「私が呼び寄せた」

 突然背後から声が聞こえた。

 二人が振り返ると、そこには王にふさわしいと思われるような正装をした男が立っていた。

 身に纏う白いマントが柔らかいひだを作って風になびいている。

 透き通るような銀に近い長髪のブロンドも、さらさらとシルクの糸のように風に揺らいでいた。

 ブラムは芸術的に洗練された美しさであったが、この男は逞しい威厳溢れる強さを持ち合わせた美しさがあった。

 男は暫く黙ってベアトリスを見ていた。

 ヴィンセントにはこの男がすぐに誰だかわかった。

「私は、フィンレイだ。全ホワイトライトの頂点に立つもの」

 その言葉でベアトリスも気がついた。何も言わずにただ見つめ返した。

「私はかつてここで愛するものと暮らしていた。一つの誕生する命を楽しみに、幸せだけが永遠に続くと信じていた。新しい命を授かったものの、宿したものは消えていった。悲劇だった。自分の立場がある以上、私はどうしても新しく芽生えた命を庇うことはできなかった。やむを得ずこの地上界で他のものに希望と一緒に託した。ノンライトとして幸せに暮らせるように。そして私はそのことを忘れるために会うことも連絡を取ることもしなかった。ただこの世界で幸せに暮らしていると信じて」

「だが、その者はホワイトライトの力を得て、隠れるようにこの地上界で暮らしていた。そしてその存在は宿した者の命を奪ったことで嫌味嫌われ、ダークライトにライフクリスタルを狙われる恐れがあるために抹殺される…… ということですか」

 ヴィンセントが話を付け加えた。

 フィンレイは暫く黙り込んだ。そして再び口を開く。

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