ピュアダーク
 ヴィンセントは真剣な面持ちでベアトリスと向かい合い、その瞳にはベアトリスがくっきりと映り込んでいた。

 ヴィンセントの真剣に見つめる瞳に吸い込まれるかのように、ベアトリスは一瞬にして違う世界に飛ばされた。

 秘めていた思いが一気に心打ち破る。ほんの数秒の間、自分の気持ちに正直になっていた。

「ちょっとベアトリス、大丈夫?」

 ジェニファーの声がベアトリスの気持ちをまた封印させる。

 ハッとしたとき、ぼっと顔に火がつくような恥じらいが押し寄せ、ベアトリスは慌てて身を引いた。

 だが触れられた部分が暫く火照り、胸もドキドキが止まらなかった。

 その一方でヴィンセントは、ベアトリスに触れた自分の手のひらを感慨深くじっと見つめる。

 その二人の間で、ジェニファーは作り笑顔を必死に保つための努力をしていた。

 ベアトリスがジェニファーの気持ちに気がつかない訳がない。

 必死に取り繕うとする。

「あっ、私、その何も覚えてなくて、というより、そんな話に驚いて、それでその、あの……」

「ベアトリス、何を言ってるの。もういつもはっきりしないんだから。とにかく、ヴィンセントが気にしてるんだから、それについてどう思うか答えてあげたら?」

 ジェニファーがイライラしている。

 それを察してベアトリスは気にしないでと、無理に笑顔をヴィンセントに向けたが、顔はうつむき加減だった。

 肩を触れられ、まじかでみた美しいヴィンセントの顔にまだのぼせていた。

「ああ、よかった。君には嫌われたくないからね」

 ヴィンセントがベアトリスの両肩にもう一度両手をポンと置いた。

 ベアトリスはドキッとして、跳ね上がった。

 そしてヴィンセントは上機嫌に笑っていたが、その隣でジェニファーが不機嫌を露にしていた。

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