ピュアダーク
 昼休み、ベアトリスは用事があるとヴィンセントとジェニファーから離れた。

 手にはしっかり自分で作った弁当を持って、そして人が来ない場所を求め校舎の裏を歩いていた。

 少しばかりの芝生と木が数本立っているだけで、人も滅多に通らず、気兼ねなくゆっくりできるとベアトリスは木陰に腰を下ろす。その瞬間、ふっと息が洩れた。

 以前はこんなことがなかったのに、ヴィンセントもジェニファーも人が変わったようだ。

 物静かなヴィンセントは距離を置いてベアトリスと接していた。

 ベアトリスとヴィンセントの間には必ずジェニファーが入り、ジェニファーがいなければヴィンセントはベアトリスには接触せず、話すことすら制限があるようによそよそしいものだった。

 それがベアトリスとヴィンセントの間に障害がなくなったように、一気にヴィンセントが勝手に入り込んでくる。

 そしてジェニファーの笑顔に陰りがでて、ベアトリスは彼女との友情に危機感を抱く。

 ジェニファーと自分とでは比べ物にならない雲泥の差があるのは分かっている。

 だが偶然とはいえ、ヴィンセントに肩を掴まれたことが拍車をかけて、ベアトリスの抑えていた感情をむき出しにした。

 あの時のヴィンセントの瞳が目に焼きついている。吸い込まれそうなほどに神秘的に透き通り、求めるようにベアトリスを見つめる──。

「あんな目で見られたら、見られたら……」

 茶色の紙袋に入ったピーナッツバター&ジェリーサンドイッチを取り出し、気持ちをかみ殺すようにかぶりつく。

 ピーナッツバターが口の中でねとねとしていた。心の中と同じようにすっきりしない後味だった。

「ベアトリス様、ここで何をされてるんですか」

 声をする方に顔を上げれば、遠慮がちに、屈んで顔を覗き込むものがいた。

 栗色のさらさらしたロングヘアーを耳に引っ掛けながら、にこっと笑顔を見せている。

 幼げで、まだ子供っぽいが、身につけている薄地の涼しげなスカートの裾のレースが清楚なお嬢様の雰囲気をかもし出していた。

「あなたは、確かええーっと、サラのお友達の」

「はい、グレイスです」

 控えめににこっと笑い、ベアトリスの隣に腰掛けた。

< 47 / 405 >

この作品をシェア

pagetop