ピュアダーク
「ベアトリス、家に入った方がいい、玄関を見てみな。アメリアが待ってるよ」

 家の附近に車が停まる気配を感じたのか、ローブを羽織ったアメリアがドアを開け、ベアトリスを心配して待っていた。

 ヴィンセントは車から降り、まっすぐにアメリアを見つめて話しかけた。

「お体はもういいみたいですね。ということは明日からまたいつも通りですか」

「ベアトリス、早く家に入りなさい」

 アメリアはヴィンセントの言葉を無視した。

 ベアトリスは車のドアを閉め、ヴィンセントに未練を残しながら何度も後ろを振り向き玄関に向かった。

 ヴィンセントはこれ以上どうすることもできないと体に力を込めて、潔く車に乗り、エンジン音を吹かせると、断ち切るようにすっとその場から去っていった。

 ベアトリスはヴィンセントがまた手の届かないところに行ってしまうのではと不安になった。

 車が見えなくなっても暫く表庭で、でくの坊のように立っていた。

 アメリアには何が起こっているかすぐ読み取れた。

 ベアトリスの髪の色が全てを物語っている。

 輝く金髪、本来のベアトリスの髪の色。ベアトリスの心が解放されている証拠だった。

 ヴィンセントはわざとそれを仕掛け、本来のベアトリスの姿を引き出してしまった。

 逡巡のため息がふと洩れ、眼鏡の位置をいつもより念入りに整える。

「気が治まったら、いつでも家に入りなさい」

 アメリアの精一杯の言葉だった。暫くベアトリスを一人にし、先に家の中に入っていった。

 ベアトリスは余韻を感じながら空を見上げる。

 一日の終わりのたそがれの宵。

 人恋しく思う夕暮れの空は寂しく物悲しい。

 一番星の輝きがヴィンセントの笑顔と重なった。

 また次の日も笑ってくれるのだろうかと心はヴィンセントで溢れかえっていた。

 やっと家に入ったときすっかり辺りは暗く、夜になっていた。

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