ピュアダーク
 昼休みになり、ジェニファーは他の友達とカフェテリアへと向かった。

 ヴィンセントは言い訳しているような言葉を並べ立て後をついていく。

 必死にすがりつくその姿はまるで離婚を回避しようとするどこかの気弱な亭主のようだった。

 周りは二人が喧嘩したと面白半分に話して楽しんでいる。

 ワイドショー並の噂と憶測が飛び交っていた。

 いろんな話の着色があっても、基本はヴィンセントが気まぐれでベアトリスにちょっかいだして怒られたという理由が主に囁かれていた。

 ベアトリスは教室の隅で一人でサンドイッチを頬張る。

 皆が面白がってチラチラみて笑っていた。

 ベアトリスの肩身がどんどん狭くなっていく。

 アンバーが面白そうにそれを突付こうと近づいてきた。

「あーあ、とうとう一人ぼっちね。最初からあんたとジェニファーが親友なんておかしかったのよ。そうだったとしてもまさかあんたがヴィンセントにちょっかいだすなんて。身の程知らずの恥知らずよね。あんたがかわいそうだったからヴィンセントは断れずに優しくしただけなんでしょ。ヴィンセントの方からちょっかい出すなんて考えられないわ。それを利用して羽目を外すからこうなっちゃって。でももうわかったでしょ。ヴィンセントはジェニファーの方が大事だって。あなたになんて見向きもしない」

 アンバーは愉快とばかり、わざとらしく笑った。

 ベアトリスは泣きたくなった。

 『身の程知らずの恥知らず』

 全くその通りだった。

 自分を選んでくれただなんて厚顔無恥にも程があった。

 歯を食いしばりながらサンドイッチを食べる。

 まるで臼で粉を引くような食べ方だった。

 その時またあの言葉が頭によぎる。

  妄想──。

 ベアトリスは自分がおかしいと本気で思い始めた。

 いろんな信じられない光景を目にしても他の誰も同調してくれる人などいない。

 自分に信じられないことが起こっても、その後はまた元に戻り、全てが夢と片付けられてしまう。

 変化を目の当たりにしても、すぐに元に戻る。

 自分の頭の中で起こってること以外に何があるというのだろう。

 他の誰にも見えないのなら、自分が狂いかけている。

 これに尽きる。

 だがその考え方はただ逃げているだけに過ぎなかった。

 事の真相を突き止めようとする勇気すらこの時ベアトリスにはなかった。

 事実なのにかき回されて自分を信じることすら出来ない。

 惨めさと情けなさはベアトリスを極致に追い込んだ。

 ──もうこれ以上我慢できない。

 ベアトリスは午後からの授業を逃げるようにサボった。

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