ピュアダーク
 向かうは前日ヴィンセントと過ごした物置部屋だった。

 ドアノブに手をかけそっとまわす。静かにドアを開け、こっそりと頭だけ中にいれ見渡した。

 前日ここで過ごした風景が頭によぎる。

 体中が熱くなるような気分をそう言えば味わったと思い出すと、あのときの自分は確かにおかしかったと益々肯定した。

 ヴィンセントはもしかしたら異常者だと思って、ただ何も言えず合わせていただけなのかもしれない。

 前日のことを思い返せばヴィンセントと触れ合った『妄想』が蘇る。

 あれは幻だと、一刻も早く忘れようとしたとき、ベアトリスの目を引くものがそこにあった。

 床に赤い水玉が点々と浮かび上がって見える。

 取り憑かれるほどに、それが気になって、物置部屋にもう一度足を踏み入れてしまった。

「なんだ、これはあのときの血のりじゃない。そう言えばあのとき、すでにヴィンセントはお芝居をしていた。本当にただの遊びだったんだ」

 ベアトリスは本当に馬鹿だったとしゃがんで、赤褐色の水玉を寂しく指でそっと撫ぜた。

 その時だった。

 焦げ付くように煙を出し、そこの部分だけ煙草を押し付けたように茶色く変貌した。

 ベアトリスが後ろに倒れる勢いで驚いたとき、半開きになったドアから声が聞こえた。

「ベアトリス、そこに居るのかい?」

 苦しく喘いでいる声だった。

 ドアの向こう側に誰かがいる。でもベアトリスにはすぐに分かった。

「ヴィンセント!」

 ベアトリスが立ち上がると同時にヴィンセントが叫んだ。

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