ピュアダーク
 ベアトリスは授業をサボっていたために難を逃れたが、もしその時自分の席についていたなら、窓ガラスが刺さってもおかしくなかった。

 だが難を逃れたといっても、これだけの負傷者がいると、よかったなどといっていられない。

 しかし、命を落としたものまではいなかった。殆ど軽傷で済んだことは不幸中の幸いだった。

 但し、精神的ダメージを受けたものは多い。

 ベアトリスは、ジェニファーやヴィンセントの安否を気遣うが、先生達の誘導で自分の教室には近づけず、運動場に進めと、人でごった返した廊下を早く歩けと追いやられた。

 事が起こってからしばらくするとサイレンを鳴り響かせて救急車、パトカー、消防車が沢山集まってきた。

 そこに加えてテレビ局の車も現れる。

 テキパキと動き、見たままの状況をカメラに収め始めた。

 学校の回りは野次馬も含めて人だかりになっていた。

 人と負傷者で溢れかえった学校は瞬く間にテレビ中継され、国内全体にブレイキングニュースとして広まっていった。

 学校のダメージだけを見ればテロだと決め付けるものがいたが、建物が揺れ、突風が吹き荒れるように窓ガラスが割れたという生徒達の証言から、竜巻による自然災害ということになった。

 だが専門家は、竜巻が発生する条件を満たしていなかったと、奇怪な現象だと強調していた。

 辺りはショックを受け、泣いてお互いを慰めあうように抱き合うものや、それぞれの状況を報告しあってるもの、深刻に受け止めないで学校が壊れたことを喜んでいるもの、それぞれ様々な生徒の心境が窺えた。

 ベアトリスは一人ポツンと校舎を空虚な目でみていた。

「今、目の前で本当に起こっていることなんだろうか」

 これこそ夢で終わってくれたら誰もが救われるのにと、夢であることを強く願っていた。

 この時、後ろからジェニファーの声を聞いた気がした。

 振り返るとジェニファーはマイクを向けられ、インタビューに答えているところだった。

 側にはアンバーが友達と抱き合って泣いている。

 どうやら誰も怪我はしてなさそうだった。

 ジェニファーは堂々とマイクに向かって答えている。

 美しい生徒がその時の状況を語る──。

 レポーターも絵になると思いジェニファーを選んだのかもしれないと、こんなときにまでベアトリスはジェニファーの存在感を感じていた。

 近寄って大丈夫だったかと声を掛けたくとも、ベアトリスの足は反対方向を向いた。

 ジェニファーに見つからないようにそっと場所を移動する。

 学校は対応に大慌てだったが、このままこの日は終わりとなった。

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