ピュアダーク
 次の日も臨時休校とし、その後土日を挟むことから、この間に全てを片付けようとしていた。

 多少落ち着きを取り戻し、自力で帰れるものは家路に着き、精神ショックが大きいものは保護者が迎えに来たりと、生徒達も次々学校を離れていった。

 ベアトリスはヴィンセントのことが気になって仕方がなく、校舎の周りを当てもなく暫くうろついていた。

 すると校舎の角からレベッカとケイトが走って現れた。

 ベアトリスを見つけるなり喜んで近づいては、二人とも後ろに回って隠れる仕草をする。

 どこか怯えていた。

「ちょっと、二人ともどうしたの?もしかしてまたサラと喧嘩……」

 ベアトリスが言い終わらないうちに、次にヴィンセントが角を曲がって走ってきた。

 べアトリスに気づくなり足を止める。

 シャツがずたずたになっているのを見られたくないと、それを咄嗟に片手で鷲づかみ背を向けた。

 そのまま何も言わず去ろうとした。

「待って、ヴィンセント。服が破れてたけど、もしかして怪我してるんじゃないの?」

 ベアトリスが呼びかけた。ヴィンセントは肩を震わせる。

「大したことない。君に怪我がなくてよかったよ…… それじゃ、さよなら」

 押し殺したような物悲しい声──。

 すぐに背を向けたヴィンセントの苛立ちがベアトリスの心の深くまで軋ませる。

 『さよなら』という言葉の響きが違う意味で悲しみを刻み込んだ。

 もう元には戻れないといわれているようだった。

 ヴィンセントを怒らせてしまったことにベアトリスは酷く罪悪感を覚えた。

 本当は好きで好きでたまらないのに、その気持ちをぐっと心の隅に押しやって、必死に声を絞り上げる。

「本当にごめんね、ヴィンセント。そして今までありがとう」

 ヴィンセントは一度も振り返ることなくベアトリスの目の前から消えた。

 ベアトリスは首をうなだれ、必死に泣くまいと唇をかみ締める。

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