ピュアダーク
ベアトリスを車で送り届けた前日の夕方──。
彼女と過ごした午後は楽しかったにせよ、アメリアに自分の存在を認められず、また次の日から何もかも元に戻ってしまうと覚悟を決めなければならないことが、苦痛の何ものでもなかった。
さらに早く帰宅していた父親と言い争いをしてしまったことが、最後の最後で後味が一層悪いものになった。
その時の父親の言葉をヴィンセントは思い出していたのである。
父親はあの時、居間のソファーでヴィンセントを待ち構えていた。
ヴィンセントは家に入るなり、無言で車の鍵を父親に向かって放り投げた。
それを父親がガシッと受け取り、その目の前をヴィンセントは話すことなどないと通りすぎようとしたとき呼び止められた。。
ヴィンセントは聞く耳など持たず、不機嫌なまでのぶっきらぼうな態度を露骨に見せてしまった。
「わかってるな。今日は特別な夢を見ただけだ。もうこれ以上彼女に近づくな。変な小細工もするな。お前が仕掛けたいたずらのせいで、アメリアが被害被った。そしてベアトリスも危険にさらされた。お前がどんなに彼女が好きでも、どうすることもできないんだ。我々とは住む世界が違う」
「ほっといてくれ。何度も同じこと言うな。聞き飽きたよ」
「ヴィンセント! いい加減にしろ。お前が関与すればベアトリスはどんな危険にさらされるかわからんのか。現にあの時、影を呼び寄せてしまっただろうが。それでもまだゲームを続けるつもりか」
「ゲームなんかじゃない。本気なんだ。だから俺が必ず守る。俺なら絶対彼女を守れる自信がある」
ヴィンセントは父親を強く睥睨する。
「うぬぼれるな! 我々がどんな種族か分かってるだろう。自分の感情のコントロールも出来ない奴に何が出来る」
ヴィンセントは痛いところを突かれて屁理屈に走ってしまう。
ぐっと体に力が入った。
「親父だって、笑わせてくれるよ。親父が刑事だってベアトリスに言ったら『正義の味方だ』って言ったよ。あんたも俺もダークライトだろうが。悪の味方のね。親父だって自分の運命に逆らってノンライト(人間)を助けようとしてるじゃないか。俺のこと馬鹿にする資格なんてねぇーよ」
「お前は何もわかっちゃいない。我々がダークライトだからこそ、悪の根源を絶たねばならない。怒り、嫉妬、野望、道理にそむく人の心に入り込み、人間に害を与える行為を無くす努力をし、そして私達にかけられた偏見を解かなければならない。ダークライトが全て悪の権化だと思われることが許せないだけだ」
「自分に酔ってんじゃねぇよ。今日、ディムライトの奴らに会ったよ。あいつら俺を軽蔑の眼差しでみるんだぜ。親父が刑事で何をやってるかわかってるくせに。ダークライトというだけで誰もが偏見を持つ。どんなに親父が正論かざして努力したところで何も変わらない。それなら最初から好きにやらせてもらう。ダークライトだからといって遠慮することなんてないんだ。ダークライトがホワイトライトに恋をすることのどこが悪いんだ」
「ヴィンセント、落ち着け。お前がベアトリスを好きな気持ちは理解している。だが、ベアトリスは普通のホワイトライトじゃない。彼女自身、自分が何者か知らされていないのを知ってるだろう。そっとしてやるのが一番なんだ。そうじゃないと彼女は……」
ここまで言いかけて突然口を噤んだ。
そして最後に言おうとしていたことをかき消すように言葉を発した。
「とにかく彼女のことは諦めるんだ。お前は弱すぎる──」
彼女と過ごした午後は楽しかったにせよ、アメリアに自分の存在を認められず、また次の日から何もかも元に戻ってしまうと覚悟を決めなければならないことが、苦痛の何ものでもなかった。
さらに早く帰宅していた父親と言い争いをしてしまったことが、最後の最後で後味が一層悪いものになった。
その時の父親の言葉をヴィンセントは思い出していたのである。
父親はあの時、居間のソファーでヴィンセントを待ち構えていた。
ヴィンセントは家に入るなり、無言で車の鍵を父親に向かって放り投げた。
それを父親がガシッと受け取り、その目の前をヴィンセントは話すことなどないと通りすぎようとしたとき呼び止められた。。
ヴィンセントは聞く耳など持たず、不機嫌なまでのぶっきらぼうな態度を露骨に見せてしまった。
「わかってるな。今日は特別な夢を見ただけだ。もうこれ以上彼女に近づくな。変な小細工もするな。お前が仕掛けたいたずらのせいで、アメリアが被害被った。そしてベアトリスも危険にさらされた。お前がどんなに彼女が好きでも、どうすることもできないんだ。我々とは住む世界が違う」
「ほっといてくれ。何度も同じこと言うな。聞き飽きたよ」
「ヴィンセント! いい加減にしろ。お前が関与すればベアトリスはどんな危険にさらされるかわからんのか。現にあの時、影を呼び寄せてしまっただろうが。それでもまだゲームを続けるつもりか」
「ゲームなんかじゃない。本気なんだ。だから俺が必ず守る。俺なら絶対彼女を守れる自信がある」
ヴィンセントは父親を強く睥睨する。
「うぬぼれるな! 我々がどんな種族か分かってるだろう。自分の感情のコントロールも出来ない奴に何が出来る」
ヴィンセントは痛いところを突かれて屁理屈に走ってしまう。
ぐっと体に力が入った。
「親父だって、笑わせてくれるよ。親父が刑事だってベアトリスに言ったら『正義の味方だ』って言ったよ。あんたも俺もダークライトだろうが。悪の味方のね。親父だって自分の運命に逆らってノンライト(人間)を助けようとしてるじゃないか。俺のこと馬鹿にする資格なんてねぇーよ」
「お前は何もわかっちゃいない。我々がダークライトだからこそ、悪の根源を絶たねばならない。怒り、嫉妬、野望、道理にそむく人の心に入り込み、人間に害を与える行為を無くす努力をし、そして私達にかけられた偏見を解かなければならない。ダークライトが全て悪の権化だと思われることが許せないだけだ」
「自分に酔ってんじゃねぇよ。今日、ディムライトの奴らに会ったよ。あいつら俺を軽蔑の眼差しでみるんだぜ。親父が刑事で何をやってるかわかってるくせに。ダークライトというだけで誰もが偏見を持つ。どんなに親父が正論かざして努力したところで何も変わらない。それなら最初から好きにやらせてもらう。ダークライトだからといって遠慮することなんてないんだ。ダークライトがホワイトライトに恋をすることのどこが悪いんだ」
「ヴィンセント、落ち着け。お前がベアトリスを好きな気持ちは理解している。だが、ベアトリスは普通のホワイトライトじゃない。彼女自身、自分が何者か知らされていないのを知ってるだろう。そっとしてやるのが一番なんだ。そうじゃないと彼女は……」
ここまで言いかけて突然口を噤んだ。
そして最後に言おうとしていたことをかき消すように言葉を発した。
「とにかく彼女のことは諦めるんだ。お前は弱すぎる──」