ピュアダーク
 ベアトリスが帰宅して間もなく、アメリアが素っ頓狂で帰ってきた。

 ニュースで学校が被害にあったのを知ったらしい。

 顔を青ざめ、ベアトリスをペタペタ触り怪我がないことを確認する。

「ちょっ、ちょっとアメリア、私は大丈夫だから。そんな触らなくても怪我なんてどこもしてない」

「もうびっくりしたわ、なんであんなことになるの。ベアトリスを危険な目によくも晒せるわね」

 アメリアには事の原因がわかっていた。

「えっ、何を言ってるの。自然災害にそんなこと言っても…… それにあの時、私、一番安全な場所にいたみたい。他の怪我した生徒達がお気の毒で」

「そうね、罪もない人たちが負傷して、かわいそうよね。だからこそもっと許せないわ。何を考えてるのアイツは」

「アイツ? アメリアどうしたの? なんか変よ」

 アメリアはなんでもないと首を横に振った。

 怪我がないとわかると落ち着いてソファに座った。

「ねぇ、今日学校で起こったこと話してくれない?」

 アメリアは恐る恐るベアトリスの表情を気にしながら聞いた。

「私、その、実は、学校が吹っ飛んだとき、違う場所にいたから、あまりどういう状況だったかわからないの」

「そうじゃなくて、それが起こる前の話のこと」

 アメリアは一体何が聞きたいのだろうか。

 まさか授業をサボったことがばれてるのだろうか。

 ベアトリスはこんなときもお説教が入ると思うと口がスムーズに開かず、答えに困ってしまった。

 言い難そうにもごもごしてると、体もくねくねと落ち着きがなくなった。

「ベアトリス、私が聞きたいのはヴィンセントのことよ」

 ヴィンセント──。

 その響きはベアトリスの表情を一瞬にして悲しみに描き換えた。

 深く考えずにいようとしてたのにまた辛い思いが心を支配してしまう。

 それだけでアメリアは推測できた。

 ヴィンセントはベアトリスに近づけないでいる。

 そしてベアトリスは上手い具合に勘違いしている。

「そっか、ふられちゃったのね」

 わざと胸に響く言葉を選んで強くそれを言った。

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