ピュアダーク
 そのベアトリスの叔母さんは母親の役目をきっちりとこなし、ベアトリスは何不自由なくここまで大きくなった訳だが、それまで何も問題がなかったわけでもない。

 強いて欠点をあげるとすれば、人一倍、過干渉で厳格すぎる育て方だった。

 門限を設けられたのは仕方がないが、それ以上に異常すぎるときがある。

 例えばシャンプーや石鹸もアメリアが買ったものしか使わせてくれない。

 持ち物は抜き打ちに検査が入り、見られて困るものはないが、何を探しているのだろうというくらい念入りに注意深く探られる。

 少し怪我をしようものなら、どこでどんな風に怪我をしたか必ず聞き、傷口を徹底的に消毒する。

 何をそこまで神経質になることなのかベアトリスには全くわからなかった。

 最初は戸惑うことばかりだったが、長年暮らしていると次第に慣れてきて、今では当たり前として違和感なくなった。

 これがパトリックが言った助けてあげたくなるほどの問題──しつけ──だったのかと、大きくなってから言葉の意味を知った気分だった。

 それを除けば虐待されるわけでもなく、邪険にされるわけでもない。

 寧ろしっかりと育て上げなければならない義務感で、アメリアの方がお気の毒に見えてしまった。

 生活費を稼ぐためになりふり構わず働き、自分の事など二の次にアメリアは未だに独身だったからだった。

 ベアトリスもこれには負い目を感じている。

 自分のせいでアメリアの人生を狂わせてしまったのではと思うと申し訳なく、そのせいで何もかも素直に言うことを聞き、ひたすら従っていた。

 教育には厳しく容赦しないアメリアであっても、面倒を見てくれていることに感謝の念を持って接していた。

 時には抱きつき、大好きと言ってみては子犬のようにじゃれ付く。

 その時ばかりはアメリアはおもはゆく、厳しすぎる自分に内心忸怩たる思いを抱かせられた。

 そして感情を飲み込むように、いつも眼鏡のブリッジを押して位置を整えるのが癖でもあった。

 その仕草は抱いた甘い気持ちをリセットしているかのように見えた。

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