タイムマシーンにのりたい
それからしばらくして、私とパパとママとしのちゃんとその男の人の5人でハンバーグを食べに行った。これは「このまえのうめあわせ」というやつらしい。
男の人は、ゆきやくんという名前で、私のパパより背が高くて、はじめは少し怖かったけど、話してみたら優しかった。
まだ、完全にに信用したわけじゃないけど、「ゆきやくん」って呼んであげることにした。
パパとママはしのちゃんとゆきやくんにいろいろ聞きたいことがあったみたいで、忙しそうだった。
私は小さかったので、時折会話に出てくる「元サヤ」の意味もよく分からないまま、パイナップルののったハンバーグを食べていた。
ゆきや君の隣に座っているしのちゃんはいつもよりニコニコしていて、私は幸せな気持ちになった。
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「おじゃまします」
玄関からしのちゃんの声がする。
しのちゃんは、赤ちゃんを産んだばかりで、お仕事をお休みしているので、赤ちゃんを連れてえみるの家によく遊びに来る。
「あれ、えみる、出かけちゃうの?」
玄関まで出てきたえみるが、しのちゃんとすれ違うように靴をはいたので、しのちゃんは少しがっかりしたようだ。
「ちょっと、そこまで」
「そこまでって…」
「すぐもどるから」
ぽかんとするしのちゃんを置いて、扉を素早く閉める。急いでいる理由を話す暇はない。
しのちゃんが来るタイミングが悪いんだ。
きっと今頃、ママがしのちゃんに「えみるが急いでいた理由」を説明しているはずだ。
ママのことだから「このごろすっかりませちゃって…」とか余計なことまで言っているんだろう。
まったく、ママはいつもおしゃべりだ。
急いでマンションの外に出ると、100メートルくらい先に、私がさっき歩いて帰ってきた道を同じように歩いてくる男の子が見えた。
「よかった、間に合った」
隣のマンションに住んでいる、二つ年上のはるき君だ。高学年の下校時刻は少し遅い。
「やっぱり、かっこいい」
ママは「そんな遠くからじゃ、全部同じ顔に見えるわ」なんて言うけれど、はるき君がかっこいいのはこの距離でも分かる。
ゆっくり近づいてくるはるき君に、なるべく気づかないフリをして待つ。
「あ、おかえり」
残り5メートルのところで気づいた振りをして声を掛けた。
それにも、はるき君は軽く手を上げて「おう」と答えただけで通り過ぎる。
そんなやりとりだけで、私の頬はあつくなり、胸はドキドキしてくるから不思議だ。
やだ、ドラマみたい。
にやけながら、私はフラリと自分のマンションのエントラスに戻る。
いつもはママにあきれられるけど、道ばたで運命的なプロポーズされたしのちゃんは、きっとこの気持ちを分かってくれるはずだ。
ふと、頭に浮かんだ言葉を、しのちゃんに言ってみようと思った。
「タイムマシーンにのりたい」
大人になったはるき君も、きっとかっこいいに違いない。
【今度こそEND】