危険な恋の始めかた

それでも笑顔を保ってお仕事を続けていたら、ふいにお客さんにそう言って声をかけられた。

ああ、またか。

あたしはこの瞬間がきらい。


「…はい、少々お待ち下さいませ」


だけど相手はお客さんだし、一応笑顔で対応する。

まぁ、ショウタくんに話しかける口実になる、って思ってることはナイショで。


「ショウタくん、お客様が呼んでるよ」

「あ、はい」


あたしがそう言ってショウタくんに声をかけると、ショウタくんは仕事を一旦中断させて表に出てくる。

そのお客さんの元に案内したら、ショウタくんの存在に気がついたらしい他のお客さんまでもが嬉しそうな歓声をあげた。


「あ、ショウタくん!」

「きゃー!ショウタくんがいる!」

「ねぇ写真撮ってー!」


…彼は、このお店に初めてやって来たその日からの超人気者だ。

たまに恥ずかしがって呼ばないお客さんもいるけれど、毎日必ずしょっちゅうこうやってみんなショウタくんを呼びたがる。

だけどあたしは、この光景を見るのが嫌なんだ。

だって、胸が痛いしムカつくから。
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