危険な恋の始めかた
「ありがとうございます。あ、このタルト今日からの新商品で、」
「ねぇショウタくん、そんなことはいいからさ、一緒に写メ撮ろー!」
…ケーキ食べに来たんじゃないんかい。
ショウタくんとそのお客さんの会話を遠くから眺めながら、あたしは思わずそう思う。
だってそうでしょ。皆ここ何のお店だと思ってんのよ。
だけどショウタくんは優しいから、終始優しい笑顔でお客さんに対応していた…。
…………
そして、その夜。
ようやく今日の仕事が終わって、その帰り。
更衣室で私服に着替えてキッチンを通ると、中にはまだショウタくんがいた。
…覗きに来たわけじゃない。ただ、キッチンを通らないと、裏口には行けないから。
お疲れ様です。
あたしはショウタくんにそう声をかけようとして、だけど思わずその言葉を飲み込んだ。
…何故かショウタくんが、独りで悲しそうな…寂しそうな何とも言えない顔をしていたから。
…ショウタくん…?