僕等の、赤。
「こっちこそ、約束破ってごめん」

 それなのに、何事もなかったかの様に話を続ける唐沢。これが、都会なのか。都会って、こうなのか。

「……千秋さんに聞きました。ボーナス、全部使って私の本を買ってくれたって」

「夏川さんの本、面白かったから。他の話も読んでみたいと思ったから。だから売れてくれなきゃ困るなと思っただけ」

 唐沢は、私の為ではなくあくまで自分の為にボーナスを使ったと言いたいのだろう。

 照れ隠しなのか、私に気を遣っているのか。

 前者だとすれば、唐沢の口から私の訊きたいことは聞けないだろう。

 唐沢はきっと言わない。唐沢のことを良く知っている白木さんがそう言っていたのだから。
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