僕等の、赤。
 私が言うしかないのだろう。でも、後者だったら? 私の勘違いだったら? 今後の仕事、やり辛くならない? この歳で再就職なんて出来ないよ? 頭の中で、言うべきか言わぬべきかがぐるぐると回る。

『言わずに後悔しないの?』

 脳内の私の声で、『今、言わなきゃ』とテーブルの下で拳を握り、勇気を振り絞る。

「……私、嬉しかったんですよ。唐沢さんがボーナスで私の本をたくさん買ってくれたことが。『唐沢さん、私のことが好きなのかな?』って思って、嬉しかったんですよ」

 唐沢の顔を見ることなんてとても出来なくて、コーヒーに映る真っ黒い自分の顔を見つめながら話す。

「…………」

 が、唐沢は返事をしてくれない。唐沢の表情を伺うことさえ出来ないから、唐沢が何を考えているのか察することも難しい。
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