コール・ミー!!!
プレゼンの日。

5組に分かれた班が、順番に発表を行っていく。

話し合う時間も発表の時間も限られているわけだから、どの班も内容がどうしても雑になってしまうのは、ある程度は仕方がない。

だか、どのテーマに関する発表でも、みんなの態度はまるで同じだった。
全員、解決方法など本当には考えていない。

なるべく早く、無難に、綺麗に授業を終わらせようという雰囲気が目立つ。
質問する側も、発表する側も。


…何のための授業なのだろう、と瑠衣は思ってしまう。


瑠衣の班の発表は最後だった。


仙崎さんが自信満々に、目一杯与えられた時間を使って、最後の言葉を締めくくる。

「自分とは離れた場所に属する同年代の人に相談できる環境を、現実的にも作ろうと、我々は計画中です」



校歌のメロディーで、チャイムが鳴り響く。
質問の時間を与えない作戦は、見事に成功した、ように思えた。

チャイムが終わり、班の皆が席に戻ろうとした。

その時、滝君が手を挙げた。

「質問」

先生が、滝君を当てる。

「はい。どうぞ、滝君」


「どうやってその環境を作るんですか?具体的に知りたいです」


仙崎さん、池岡さん、安西君、谷崎君は、言葉を失った。


「それは…」







瑠衣は、それに答えた。





「コミュニティ・アプリです」





皆が、瑠衣に注目した。




「現実の中で、相手の目を見て大切な話を、初対面の人間にするという事は、難しいかもしれません。ですが、スマートフォンのアプリの中でなら、肉体的な概念を取り払って気楽に話が出来ます」

瑠衣は続けた。

「たまたまアプリを作成できる人物が身近にいたので、今回試験的に作ってもらいました。個人情報が漏れないように管理人が一日一度は必ずチェックします」

瑠衣は、クラスの皆を見回した。


「加害者、被害者問わず、いじめに悩む人が最も気楽に、何でも好きな話を楽しめて、快適な茶飲み友達を探せる場所を、スマホのアプリ内で提供します」


瑠衣は、クラスのみんなを見つめた。

「自分の現状にある環境とは離れた、全く外にいる同年代の人間に、何でも相談できるように」


同じ班の仙崎さん達は、唖然とした。


こんな内容は、もちろん班のみんなには提案していない。話し合いが時間切れになり、提案出来ないままだったのだ。

でも、もしも万が一質問があった時の為に、昨晩理衣に相談して本当にアプリを作ってもらっていた。

「アプリについて知りたい方は、後ほど佐伯まで聞きに来て下さい。終わります」


瑠衣はプレゼンを締めくくった。




休み時間、トオヤか瑠衣に声をかけた。



「アプリの事、本当?」



瑠衣は苦笑いして頷き、トオヤに自分のスマホを見せた。



『hanaso land-ハナソウランド』



画面をよく見ると『シルリイ』によく似たマスコットが、腰をクネクネさせながら踊っている。
タップするとパステルカラーのアプリ内に入り、色んなカテゴリーの世界に案内してもらえるようになっていた。

そこにはデフォルメされた人達が楽しそうに動き回る、可愛らしい世界がいくつも広がっている。

「私は直接人と話すのが好きだけど。こういう世界で誰かと話すのも、結構楽しいかもね」

「…」


トオヤは、瑠衣の携帯を、食い入るように見つめていた。


「昨日の夜、理衣にこのアプリ作ってもらったんだ。『嘘から出た誠』、よね」



瑠衣はまた、やってしまった、と感じていた。


出しゃばってしまったのだ。


班のみんなに相談も無しに、勝手にこんな方法を取るのは良くないと、経験上良くわかっている。

「相談も無しに、ゴメン」


何だか、色々ムカついて、イライラしていた。




トオヤは、首を横に振った。






「瑠衣ともっと早く会えてたら、良かった」




トオヤは、瑠衣に携帯を返した。



「アプリも、瑠衣も」



そしてぐっと、瑠衣に顔を近づけて。



「すごい」


と言った。




瑠衣は、トオヤの顔を見上げた。




それは、見た事が無いくらいに美しくて、
切なそうな、笑顔だった。




胸の奥がまた、ぎゅっと鳴るのを感じた。






家に帰って夕飯を食べ、風呂もすませて、さあ寝よう、と思っていた頃。

理衣が自分の部屋のドアを開け、瑠衣に声をかけてきた。

「お姉、ちょっと来て」

「?うん」



理衣の部屋に入ると、妹はいつも通り雑然とした発明品の中でパソコンを覗いたまま、こう言った。


「これ、お姉の事じゃない?」


LINEグループの画面。



なんじゃこりゃ。
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