コール・ミー!!!
「おはよう…。…もしかして、わざわざここまで、迎えに来てくれたの?」

トオヤは玄関の表札の横に立って、頷いた。

「うん。昨日、大変そうだったから」



…あ。



インパクトの強かった夢のせいで、
昨日、阿賀野拓也と再会した最悪な出来事を、瑠衣は、完全に忘れていた。



「ありがとう…トオヤ」

申し訳無さと、感謝が溢れてくる。
こんなに、心配してくれるなんて。


優しい、トオヤ。


それなのに、自分ときたら。
昨日の出来事を忘れて、夢の内容で頭がいっぱいになっていたなんて。



「瑠衣、風邪?」



少し心配そうに、トオヤはマスク姿の瑠衣を見つめてくる。

瑠衣は、少し慌てて言い訳をした。
「うん、ちょっとね、風邪、…というか、いろいろ…予防」

「そう」

トオヤは瑠衣の全身をサッと見て、

「靴下が左右違うけど。わざと?」
と言った。

ええっ?!!

慌てて自分の靴下を見る。
左が黒で、右が紺色。長さも少し違う。

恥ずかしい!


「間違えた…!」


「まだ時間あるから、戻って履き替えたら?」

「そうする!ごめん、ちょっと待ってて」

瑠衣は家に戻り、慌てて靴下を履き替え、等身大の鏡を見た。

マスク姿の、自分。
表情を隠すためだけにつけた、マスク。

これは、自分がなりたい自分じゃない。


…隠しては、ダメだ。



瑠衣は口元につけていた使い捨てマスクを、自分の部屋のゴミ箱に、意を決して捨てた。


そして、トオヤの元へと走った。


「マスクは?」


瑠衣は、恥ずかしそうに、笑って答えた。


「やめた!」











学校に着くとクラスの皆に挨拶をしながら、荷物を置いて席に座る。

「今日、修学旅行の班のメンバー決めないとね?久世君の他に、男子は誰を誘おうか」

東條さんは朝の挨拶が済むと、瑠衣とトオヤに相談を始めた。

「俺は、誰でもいい」

トオヤは、淡々と答えた。

四条南高校の修学旅行は、5月末に行われる。皆がクラスにようやく馴染んだ頃に、この高校生活最大の、楽しいイベントがやって来るのだ。

男女均等にシャッフルして6人ずつの班を5つ決め、そのメンバーで班別行動の時間を過ごす。誰と同じ班になるかを、事前に決めておかなくてはならない。

瑠衣はトオヤの他に、東條さんと漆戸さんを誘って、一緒に回ろうと約束していた。


…男子。




……滝君。




……滝君、昨夜は本当にごめんなさい。







………妙な夢に、登場させてしまって…。




あんな…。











その滝君が、いきなり話に参加してきた。
「俺も、同じ班に混ぜて!!」




「!!!!」





瑠衣は、びくっと体が飛び上がった。






本物!!!!!





「いいわよ!ね?」

東條さんは笑って、漆戸さん、瑠衣、トオヤを見た。

「う、うん、もちろん!よ、よろしく!」


瑠衣は勢い良く、不自然なくらいに何度も、首を縦に振った。


「…?」


滝君とトオヤは、ちょっと不思議そうな目で瑠衣を見つめた。


「ええ、いいですよ。でも、滝君は他の班の女子から誘われていたのでは?!」

漆戸さんがそう聞くと、滝君は苦笑いした。

「この班以外からはね。だから、ここがいいんだ。1番気楽に話せるし。あと、戌井も誘ってみていい?」

「うん」
トオヤが頷いた。

「この間トランプしたメンバーになったわね!いいわよ。漆戸さんにも入ってもらって、また全員でトランプしましょ!」

東條さんは、とても嬉しそうだった。
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