コール・ミー!!!
テスト3日前。
滝君から、突然のメールが瑠衣に届いた。

『放課後、駅前の《かのと屋》に来てくれないか?話がある』

《かのと屋》は、老舗の人気甘味処である。

最近できばかりのた新しいお洒落なカフェや、リニューアルした広いバーガーショップに客を取られ、この店は最近、少々閑散としていた。

席と席が個室の様に簾で仕切られているため、誰にも見られずに、隠れてこっそりと会う事ができる。

瑠衣は、連絡をもらっていた1番奥の席で待っている滝君を、無事に発見した。

緊張はしたが普段通りを装いながら、簾越しに笑顔で、彼に声をかけてみる。

「アイドルと密会する時って、こんな感じなのかな。…見つかったら、ファンクラブの子達に殺されちゃうかも」

滝君は笑った。

「からかうなよ。…座って」

瑠衣は滝君の向かいに座り、一緒にあんみつを注文してから、彼に聞いてみた。

「どうしたの?改まって」


学校じゃ言えない用事だったのだろうか。



「もう今を逃したら」


滝君は、冷たい水を一口飲んだ。

いつもはきはきとしている彼にしては珍しく、声が低く掠れている。

瑠衣は無意識に、彼の柔らかそうな唇を見つめてしまった。

「2人で話すチャンスが2度と、巡って来ない気がしたから」

目と目が合う。

「今、久世が学校休んでるし」

少し日に焼けた肌。
男の子らしい、存在感。

急にあの夢を、鮮烈に思い出してしまった。






何度も、何度も、重なる唇。








「最近お前は久世と一緒だったから、声かけづらかったんだ」





瑠衣はモヤモヤと浮かぶ夢の残像を、頭の中で払っては消していたが、少しずつ、顔が赤くなっていった。







「あいつと、付き合ってるの?」








瑠衣は、驚いて首を横に振った。





「トオヤは、友達」




あんみつが、2つ運ばれてきた。

少しだけ、食べてみる。

カラフルな寒天が、ひんやりとしていて程よく甘くて、とっても美味しかった。

滝君は、肩の力を抜いた。




「よかった…」




間に合った、という表情。




「…この間、部活見に来てただろ」




バレてた。




「うん。見てた」







「…俺を?」






「…うん。滝君の華麗なプレー、カッコ良かった」




「ありがと」




滝君は、瑠衣に顔を近づけた。





「最近ずっと様子が変だった。お前」





あの夢を、思い出してしまい、

滝君の顔を見るたび、赤くなってたから。

保健室の、あの情景。


今、自分は、
どんな顔をしているのだろう。



彼の、真剣な表情。

その視線が真っ直ぐすぎて、
目を反らせない。









「その顔、何…?…すげー可愛い」









彼も、顔が真っ赤になっている。







…え?










「俺、期待してもいいの?佐伯」



………?




「え?」





「ずっと好きだった。佐伯の事」



滝君は息を大きく吸って、吐き出しながら、小さいけれど、はっきりとした声で瑠衣に言った。







「佐伯、俺と付き合って」







瑠衣は、自分の耳を疑った。







これは、あの夢の続きなのだろうか?



滝君が、今、自分に告白を…。







「好きな奴いるの?」








瑠衣は、首を横に振った。





「迷惑だった?」





迷惑だなんて、とんでもない。


慌てて、また首を横に何度も振った。





とても、嬉しい。
本当に。




でも、だからこそ、
今、答えを出すことは出来ない。




あの夢に対する罪悪感が、
消えたわけでは無いのだから。



このままの状態で返事をするのは、
本物の滝君に対して、あまりにも失礼過ぎる。





「ありがとう」





瑠衣は、慎重に言葉を選びながら、ゆっくりと言った。




「すごく、嬉しい」





滝君は、一瞬表情が明るくなった。








「でも、ごめん。少し、時間をもらえないかな」





彼の表情が、また少し陰った。




「ちゃんと滝君の事、考える」







瑠衣は、自分に期限を決めた。


「修学旅行の時に、少しだけ時間をもらえる?また連絡するから」




必ず、答えを出すから。






「その時に、返事させて」




滝君は、頷いた。





「…わかった。待ってる」



彼は少し体の力を抜き、リラックスした表情で、あんみつを美味しそうに食べ出した。

こんな時に不謹慎だが、食べる姿の彼を見ていると、何だかホッとしてしまう。

…ここに誘ってくれたという事は、彼は甘い物が好きなのだろうか。


彼は、急に話題を変えた。

「プレゼン発表の日さ」


「…うん」


「ごめんな、無理矢理質問して。どうしても聞きたくなった」


そういえば。


授業が終わるチャイムが鳴ってから、彼は質問してきたのだった。



「佐伯の表情見てたらさ、何か企んでるように見えたから。何考えてるのか、聞いてみたくなったんだ」
< 25 / 60 >

この作品をシェア

pagetop