コール・ミー!!!
中間テストがやっと終わった。
終わるとすぐに、皆がその結果を知らぬまま、修学旅行の日が、やって来た。
行き先は、九州。
修学旅行の初日、クラスのみんなと一緒に熊本に到着した。
大地震による傷や崩壊した部分を修繕するため、熊本城の中に入る事は出来なかった。
修繕している最中の姿を、遠くから写真に撮ることしか出来ず、立派だった頃の城の姿を思い、悲しく感じてしまう。
この場所の数ある歴史を地震が滅ぼす事は、決して無いのだろうけれど。
大切にしたかった物の価値は、傷ついてしまった事によって深く、思い知らされてしまう。
悩んだ末、班別行動で女子だけのランチの際、瑠衣は東條さんと漆戸さんに自分の現状を相談する事に決めた。
和食店の中、窓辺のテーブルを囲んで、3人は他愛のないお喋りを散々楽しんだ。
東條さんには、10歳離れた研修医の彼氏がいる事。
漆戸さんは、まだ戌井君を好きになってから時間があまり経過していない事。
瑠衣に、発明家の双子の妹がいる事。
外の街並みを眺めながら、ゆったりとした椅子にそれぞれ腰かけ、お喋りする内容は尽きない。
3人でずっと話していられそうだった。
瑠衣は頃合いを見て2人に、思い切って打ち明けてみる事にした。
「2人に聞きたい事が、あるの」
東條さんと漆戸さんは、改まって真面目にこう聞く瑠衣に対して、姿勢を正して返事をした。
「いいわよ」
「何でしょう」
瑠衣は、深呼吸してから、こう言った。
「好きでもない男の人と、キスをした夢を、見た事がある?」
夜になって旅館での夕食も終わり、入浴を済ませた後。
夜の9時。
旅館のロビーにて。
東條さんは、漆戸さんに、問いかけた。
「…これで良かったのかしら」
「佐伯さんを、信じましょう」
2人が座っているソファーにトオヤが近づいて、こう聞いた。
「…瑠衣は?」
「まだお風呂。私達は彼女を待ってるの」
トオヤは、東條さんをじっと見つめ、
「そう。わかった」
と言って、エレベーターの方へと歩き出した。
「久世君」
「…?」
「後で、みんなでトランプしない?私達の部屋で」
「…うん」
「また連絡入れるね」
トオヤは頷き、2人に手を上げてその場から離れた。
「…何だか、バレた様な気がする」
「…そうですね。久世君には、嘘が通じない気がします」
まさか、滝君と瑠衣が今、部屋に2人きりだとは、とても言えなかった。
9時間前を、2人は思い出す。
夢の話を聞く時の瑠衣は、出会ってから今までで1番、真剣な表情だった。
『あるわ』
『あります』
正直に、あの時の2人は瑠衣の質問に答えた。
「あれ、…本当?」
「…何がですか?」
「夢の話」
「嘘なんて、つきません。でも、相手は友達の女の子でした。だから…『好きでもない男の子』というわけでは、無かったのですが。…夢なんて、いい加減なものですから」
「…そうよね。私は、中学の時の美術の先生。尊敬できる先生だったけど、全然私の好みじゃ無かったわ」
東條さんは、ソファーの背もたれに寄りかかり、腕を組んだ。
「…どうしてあんな夢を見たのかしら…って、しばらく悩んだけど、すっかり忘れてた。…中学生の時だから、かなり前ね」
彼女は、溜息をついた。
「佐伯さん…何だか苦しそうだった。だから、ありのままを答えたつもり」
瑠衣は滝君との話の他に、2人には全てを打ち明けていた。
彼女の最も辛かった過去の話を、2人はまざまざと思い出す。
聞くだけで、戦慄を覚えてしまう。
「まさか佐伯さんにあんな、つらい過去があったなんてね…」
「阿賀野拓也の悪い噂は、あちこちから聞こえて来ますよ」
「…そうなの?知らなかったわ」
「私の父親は、新聞記者なんです。…情報によると、阿賀野拓也は過去に何度も猥褻疑惑が挙がっており、警察に捕まるのも、時間の問題のようです」
その時の瑠衣は、
広い部屋の窓辺にある丸テーブルを挟んで、滝君と向かい合わせで座っていた。
東條さんと漆戸さんに頼んで、割り当てられていた3人の部屋をしばらく借りたのだ。
夜の街並みを眺めながら、瑠衣はペットボトルのお茶を口に含んだ。
白いTシャツに黒いジャージズボン姿の彼が、先に口を開いた。
「お前…、俺を1人で部屋に呼ぶとか、あり得ないだろ…」
「部屋が1番いいと思ったの。旅館を抜け出したらすぐ見つかりそうだし、日中は滝君、完全にファンの子達にマークされてるし」
「…だからって、夜、部屋に2人って。…お前俺の事、バカにしてる?」
「…してないよ?」
滝君は、テーブルの上で瑠衣の左手を握った。
「俺、お前が好きだって言ったよな?」
触れられた。
滝君の、真っ直ぐな瞳。
お風呂上がりの、無造作な髪型。
はじめて見る、彼の切なそうな表情。
徐々に、優しく柔らかくなっていく、手の感触。
夢の残像と、現実の熱が、交差する。
「…うん。その返事を、したいと思って」
滝君は、もう一度瑠衣に聞いた。
「…俺と、付き合ってくれる?」
終わるとすぐに、皆がその結果を知らぬまま、修学旅行の日が、やって来た。
行き先は、九州。
修学旅行の初日、クラスのみんなと一緒に熊本に到着した。
大地震による傷や崩壊した部分を修繕するため、熊本城の中に入る事は出来なかった。
修繕している最中の姿を、遠くから写真に撮ることしか出来ず、立派だった頃の城の姿を思い、悲しく感じてしまう。
この場所の数ある歴史を地震が滅ぼす事は、決して無いのだろうけれど。
大切にしたかった物の価値は、傷ついてしまった事によって深く、思い知らされてしまう。
悩んだ末、班別行動で女子だけのランチの際、瑠衣は東條さんと漆戸さんに自分の現状を相談する事に決めた。
和食店の中、窓辺のテーブルを囲んで、3人は他愛のないお喋りを散々楽しんだ。
東條さんには、10歳離れた研修医の彼氏がいる事。
漆戸さんは、まだ戌井君を好きになってから時間があまり経過していない事。
瑠衣に、発明家の双子の妹がいる事。
外の街並みを眺めながら、ゆったりとした椅子にそれぞれ腰かけ、お喋りする内容は尽きない。
3人でずっと話していられそうだった。
瑠衣は頃合いを見て2人に、思い切って打ち明けてみる事にした。
「2人に聞きたい事が、あるの」
東條さんと漆戸さんは、改まって真面目にこう聞く瑠衣に対して、姿勢を正して返事をした。
「いいわよ」
「何でしょう」
瑠衣は、深呼吸してから、こう言った。
「好きでもない男の人と、キスをした夢を、見た事がある?」
夜になって旅館での夕食も終わり、入浴を済ませた後。
夜の9時。
旅館のロビーにて。
東條さんは、漆戸さんに、問いかけた。
「…これで良かったのかしら」
「佐伯さんを、信じましょう」
2人が座っているソファーにトオヤが近づいて、こう聞いた。
「…瑠衣は?」
「まだお風呂。私達は彼女を待ってるの」
トオヤは、東條さんをじっと見つめ、
「そう。わかった」
と言って、エレベーターの方へと歩き出した。
「久世君」
「…?」
「後で、みんなでトランプしない?私達の部屋で」
「…うん」
「また連絡入れるね」
トオヤは頷き、2人に手を上げてその場から離れた。
「…何だか、バレた様な気がする」
「…そうですね。久世君には、嘘が通じない気がします」
まさか、滝君と瑠衣が今、部屋に2人きりだとは、とても言えなかった。
9時間前を、2人は思い出す。
夢の話を聞く時の瑠衣は、出会ってから今までで1番、真剣な表情だった。
『あるわ』
『あります』
正直に、あの時の2人は瑠衣の質問に答えた。
「あれ、…本当?」
「…何がですか?」
「夢の話」
「嘘なんて、つきません。でも、相手は友達の女の子でした。だから…『好きでもない男の子』というわけでは、無かったのですが。…夢なんて、いい加減なものですから」
「…そうよね。私は、中学の時の美術の先生。尊敬できる先生だったけど、全然私の好みじゃ無かったわ」
東條さんは、ソファーの背もたれに寄りかかり、腕を組んだ。
「…どうしてあんな夢を見たのかしら…って、しばらく悩んだけど、すっかり忘れてた。…中学生の時だから、かなり前ね」
彼女は、溜息をついた。
「佐伯さん…何だか苦しそうだった。だから、ありのままを答えたつもり」
瑠衣は滝君との話の他に、2人には全てを打ち明けていた。
彼女の最も辛かった過去の話を、2人はまざまざと思い出す。
聞くだけで、戦慄を覚えてしまう。
「まさか佐伯さんにあんな、つらい過去があったなんてね…」
「阿賀野拓也の悪い噂は、あちこちから聞こえて来ますよ」
「…そうなの?知らなかったわ」
「私の父親は、新聞記者なんです。…情報によると、阿賀野拓也は過去に何度も猥褻疑惑が挙がっており、警察に捕まるのも、時間の問題のようです」
その時の瑠衣は、
広い部屋の窓辺にある丸テーブルを挟んで、滝君と向かい合わせで座っていた。
東條さんと漆戸さんに頼んで、割り当てられていた3人の部屋をしばらく借りたのだ。
夜の街並みを眺めながら、瑠衣はペットボトルのお茶を口に含んだ。
白いTシャツに黒いジャージズボン姿の彼が、先に口を開いた。
「お前…、俺を1人で部屋に呼ぶとか、あり得ないだろ…」
「部屋が1番いいと思ったの。旅館を抜け出したらすぐ見つかりそうだし、日中は滝君、完全にファンの子達にマークされてるし」
「…だからって、夜、部屋に2人って。…お前俺の事、バカにしてる?」
「…してないよ?」
滝君は、テーブルの上で瑠衣の左手を握った。
「俺、お前が好きだって言ったよな?」
触れられた。
滝君の、真っ直ぐな瞳。
お風呂上がりの、無造作な髪型。
はじめて見る、彼の切なそうな表情。
徐々に、優しく柔らかくなっていく、手の感触。
夢の残像と、現実の熱が、交差する。
「…うん。その返事を、したいと思って」
滝君は、もう一度瑠衣に聞いた。
「…俺と、付き合ってくれる?」