コール・ミー!!!
「久世君?!」

しまった。

まだ友達にもなっていないのに、あまりの偶然に驚いてしまい、瑠衣は彼に思わず声をかけてしまった。


迷惑だっただろうか…?


話した事もない同級生の、しかも女子に話しかけられるなんて、彼にとっては非常に迷惑で嫌な出来事なのかも知れない。


「佐伯さん」


「!!」


「すごい偶然」


「そうだね。…こんにちは」


さっき学校で会ったんだから、『こんにちは』は変だったかな。


彼はこちらを見て、無表情だけどきちんと会釈してくれた。


苗字を、覚えてくれていた。
瑠衣がクラスメイトだという事も。
その事に、かなりビックリしてしまった。


しかも、もっと表情に嫌悪感を漂わせるのかと思ったが、意外と普通に話してくれている。


はっと我に返り、彼に話しかけた。


「偶然だね。私ここが好きで、一人でフラっとよく来るの。年間パスポートも持ってるんだ」


瑠衣はちょっと躊躇ってから、思い切って彼に質問してみた。


「久世君は水族館によく来るの?」

「うん」

彼は、速いスピードで競うように泳ぐマグロを見つめながら、答えた。

「札幌にいた時は水族館が近所にあったから、そこによく行ってた」

彼は続けて
「ここは初めて」
と付け加えた。

ごくごく普通に、短い口調ではあるけれど、ちゃんと質問に答えてくれる。


勉強以外にもちゃんとあるんだね、
好きな事。



彼は瑠衣に、聞いてきた。

「ここ年間パスがあるの?」

「?うん」

「俺も作りたい」

彼は、急に近づいてきた。

「…」

「どこで作れるの?」

ハッ!と、我に返る。


「…あ、一階だよ。案内するね」


一階のカウンターの方へ彼を案内しながら、心臓が力強い和太鼓の様なリズムを刻んでしまう。


ヤバイ。
固まってしまった。


彼の滑らかな透き通るような肌と、少し薄茶色がかった美しい瞳を、迂闊にも至近距離でじっと見てしまい、全身フリーズしたのだ。


美しすぎる…。
今までに一度も見た事が無いタイプの美形。


彼は、もしかしたら滝君よりもモテるかも知れないな、と瑠衣は想像してしまった。


まさか、彼と最初に話せる様になるなんて。


嬉しい。


無口な人の様だから、誰とも話したがらないのかと、第一印象で勝手に思ってしまっていた自分。

恥ずかしく思う。


だから、ちゃんと話してみたいのだ。
本当は、もっと。誰とでも。



無事に年間パスポートをゲットした久世君は、相変わらず無表情ではあったが突然、思いもかけない事を言い出した。


「お茶してく?まだ4時半だし」


一階の売店横にある、館内のカフェを指差しながら。


「さっき」


売店前の看板に書いてあるメニューを眺めながら、久世君は続けた。


「人と話す事が大好きで、お茶してくれる友達を募集してるって言ってたし」


瑠衣は目を見開いた。
自己紹介の言葉まで、ちゃんと覚えててくれたなんて。


「うん。お茶したい」


思わず、即答してしまう。

「じゃ、いこ」

彼はサッサとカフェに入っていく。


ああ、もう、…どうしよう。

男の子と2人でお茶するの初めて。

それだけじゃない!!!

超絶美形で現実離れした、ちょっと変わってる久世君と2人。

頭がクラクラしてきそう。

なんて日だ!
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