コール・ミー!!!
「久世君が、ドレスのデザインを?」

漆戸さんが、おにぎりのシャケを落としそうになりながら、瑠衣に聞いた。

ある金曜日の昼休み。

東條さん、漆戸さん、瑠衣の3人は、中庭のガーデンテーブルでお弁当を一緒に食べていた。

何故か今日、トオヤは学校を休んだ。
後で連絡してみよう、と思いながら瑠衣は、サラダから食べ始めようかハンバーグからにしようか少し迷い、結局サラダのマカロニに手を出した。

「そうなの!すっごく上手だった」

2人にも、見せたいくらい。
瑠衣は箸でつまんだマカロニを眺めながら答えた。

「意外性のある人物ね…。あ、そういえば、そろそろじゃない?」

東條さんは、売店限定20食の超レアなフルーツサンドを頬張りながら、何かを思いついた。

「…何が?」

瑠衣が聞くと、

「テスト結果。貼り出される頃でしょう!後で一緒に見に行きましょう?」

と彼女は答えた。


3人は、お弁当を食べ終わると校舎裏にある大きな掲示板を見に行った。


貼り出されていた内容に、かなりの衝撃を受ける。


1.久世透矢
2.戌井鉄也

8.漆戸雅


14.滝佑太郎



52.佐伯瑠衣




84.東條 泉美









「久世君、すごいわ…」

東條さんは、口をポカンと開けていた。

「確か、久世君はテスト前…ずっと学校休んでましたよね…?一体いつ勉強してるんでしょう」

漆戸さんは、少し悔しそうだった。

瑠衣は、ただただ呆然としてしまった。

テスト前、アメリカに行ってたのに!!

トオヤは、どうしてこんなに勉強が出来るの?!


ますますトオヤに関する謎が、深まっていくばかりだ。

「佐伯さんも、おめでとう」

東條さんは、瑠衣に微笑んだ。

「ありがとう。初めて100番以内に入ったよ…」

「大躍進ですね!」

それもこれも、教えてくれたトオヤと滝君のおかげかも知れない。みんなと勉強出来た事にも感謝の気持ちで一杯になる。

「また、みんなで一緒に勉強したいね!」

瑠衣が言うと、漆戸さんは嬉しそうに頷く。

「ええ、また是非。みんなで勉強できて本当に良かった」

「私も楽しかったわ。今度からは私にも、最初から声かけてね!」

東條さんも、それに乗るように手を挙げた。



「あの、…ね」

瑠衣は、思い切って2人に、お願いをした。

「…2人の事、これから苗字じゃなくて名前で呼ばせてもらっていい…?」

こういう事を言い出すときは、決まって少し緊張してしまう。
もう、自分はこの二人の事が、本当に好きになっていたから。


東條さんと、漆戸さんは、目を大きく見開いた。


「ええ、もちろんです!」


「嬉しいわ!私も名前で呼んでいい?」


「うん、そうしてくれると、嬉しい」


「雅」
漆戸さんを、呼んでみる。

「泉美」
東條さんを、呼んでみる。


「瑠衣」
泉美が楽しそうに笑い、初めて瑠衣を名前で呼ぶ。

「瑠衣さん、って呼びますね」
雅が、恥ずかしそうに笑い、少し緊張した様子で瑠衣を呼んだ。

「うん!」

かねてからの念願が、やっと叶った。

また少し、2人との距離が近づいた気がして、瑠衣はとても嬉しかった。



















放課後の手芸部には、雅が遊びに来た。


部長の楓は、ついに一番来て欲しかった『漆戸雅』が部室にいるという事に、驚きながら感動していた。そして絶対にこのチャンスを逃すまいとする目が、なんというか、ギラギラ輝いていた。

「いらっしゃい。漆戸さん!ついに来てくれたのね。…手芸部に入ってくれる気に、なった?」

楓が声をかけると雅は、

「こんにちは!突然すみません。いいえ、入部希望でも、新聞部の取材でもないんですが、久世君が描いたというデザイン画を、少し見せて欲しいんです」

楓は、がっくりとうなだれた。

「いいわよ、でも企業秘密だからね」

葵が横から茶化すように言って、雅にウインクした。

雅は皆に会釈をしてから、デザイン画のコピーを見始めた。
葵と桃花も手を止めて、雅の姿を興味深そうに見つめている。

瑠衣は、全員のデザインとトオヤのデザインを熱心に見比べる雅に、不思議そうに声をかけた。

「どう思う?雅」


「…凄いです」


「瑠衣さん、ファッションショー開催をするとして、文化祭に久世君の作品を出すのなら、ご本人に確かめなくてはならない事も、いくつかあるかと思います」

瑠衣は、首を傾げた。

「どういう事?」

雅は、自分の眼鏡を右手の人差し指で上げて、核心をついた。

「久世君は、おそらくはプロです」










瑠衣だけではなく、望月さんを含む部員全員が雅を見つめて静かになった。

「確証はまだありませんが、あるデザイナーの作品を思わせます。明らかに他の人の作品とはレベルが違っていて、所々、素人には到底無理な内容ですし…」

雅が指差した部分は、普通のミシンでは縫えそうも無いような、複雑なウエーブが描かれている。

トオヤが今日学校に来れば、本人に直接聞いて、本当の事を教えて貰えたかも知れないのに。

いや、『内緒』と言われ、またはぐらかされるかも知れない。



最近、会わないときはいつでも、トオヤに何かを聞きたくてうずうずしている。



楓が、雅に聞いた。
「その、あるデザイナーって、…もしかして…」





雅が答えた。



「『アフローミア』です」
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