コール・ミー!!!
その日の帰り道。




誰かの視線を感じた。






夜19時を廻ってから自宅のすぐ近くの道を歩いていた瑠衣は、恐怖で背筋がぞっとするのを感じた。

瑠衣の自宅は住宅地の真ん中にある。
静かで住みやすくはあるが人通りが大変少なく、灯りがあまり点いていないので、辺りがとても暗い。

この道を暗い中1人で歩くのは、最近とても怖い。
と思い、歩くスピードを速めていた矢先だった。


「やっと帰ってきた」





後ろから、男の声。




振り向くと、瑠衣のすぐ背後に阿賀野拓也が立っていた。





「まだあの家に住んでいたんだな、瑠衣」






瑠衣は、大声で叫ぼうとした。









だが、拓也が瑠衣に伸ばす手の方が、
一瞬早かった。


口元にグレーのハンカチを当てられ、何かの臭いを嗅がされる。











意識が、急激に、遠のいていった。










近くに止められていた車の後部座席に乗せられ、
瑠衣は、どこかへと運ばれていく。






拓也に、拉致されてしまった。





















午前二時。


電話のコール音が、鳴り響く。

トオヤは自室のベッドに入ってはいたが、起きて本を読んでいた。



スマホの画面に表示された相手の名前を見つめ、慌てて電話を取る。


『トオヤ…!』


理衣の声。焦っている様子が、手に取るように伝わって来る。



「…理衣?…どうした?」




『お姉が家に帰って来ない』




「…いつから?」



『今朝、学校へ行ったきり』



「…警察へは?」


『母がもう警察には連絡してある。…こんな事は初めてだから。でも、お姉はもう高校生だから自分の意思でそうしている可能性もあると、事件性が確証されないこういう場合は、警察はすぐに動いてはくれない』







「…瑠衣が…」








トオヤは、生まれて初めて、大きく動揺した。


『トオヤ』


「…」


『シルリイで、お姉を呼んでみて』


「…わかった」


『とにかく、私は何でもいいからやってみる。大体の場所はGPSでわかるけど、お姉の居所を正確に突き止めたい。今は電車が動いていないし、探すのは朝になってからの方がいい』



「…うん」



『最悪の場合お姉は、阿賀野拓也に監禁されている可能性が高い』












「…理衣、やってみる。また連絡するから」









電話を切る。

トオヤは、動揺などしている場合では無いことを感じた。











瑠衣!!!

















『瑠衣』









…誰?










『瑠衣!』












…なあに?


















『どこにいるの、瑠衣!!』


















…どこって、…ここ、どこだっけ。



















「…?」


















目が覚めてきた。

















頭がボーっとしている。
















ここは、誰かのベッドの上。



















目の前に、長い睫毛。














目の前に、さらさらした柔らかい栗色の、少しだけ長い髪。











目の前に、滑らかな透き通るような肌。
…うっすらと、頬に涙の跡。












目の前に、現実離れした超絶美形男子が、眠っている。














今ちょっとでも動いたら、顔がくっついてしまいそう!!






































トオヤだ!
















心臓がいきなり、ドキーン!!!と、鳴り響いた。














ここはどこ?







私は、…誰?











手を動かし、両手を自分の目の前にかざす。
















「ギャー!!!!!!!!!!!」















自分の!!!!手が!白い!!!!!!!












毛むくじゃら、モフモフ!!!!!!












指が無い!!!!










手のひらに部分には、肉球の形をイメージしたハートマークが、
雑な縫い目で、縫い付けられてある。

…見覚えがあるような…?















自分は、
ぬいぐるみだったのか!!!!!
















一体誰が作ったぬいぐるみなのだろう。









肉球部分に縫い付けてある文字を読む。








『シルク50』











私が作った『シルク』だ!!!!!この体。















どうりで、…縫い目が雑なはずだ。









「…ん」















目の前の、少し薄茶色がかった美しい瞳が、ゆっくりと開く。














「トオヤ!」










「瑠衣…」










トオヤは薄く目を開き、まだ覚醒していないらしく、もう一度目を瞑って、












『シルク』にそっと、キスをした。
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