コール・ミー!!!
サル山横のフードコートにて4人で昼食を摂っている時、瑠衣は久世君の会社を見に行きたいから、午後からは彼とそちらへ行ってもいいか2人に聞いてみた。

「もちろん、2人はここをゆっくり見てもらって構わないんだけど」

漆戸さんと戌井君は、顔を見合わせた。

「…良ければ私も、行ってみたいです、久世君の会社」

「僕も。すごく興味ある。…動物よりも」

瑠衣が伺うように見ると、久世君はすぐに頷いた。


「じゃあ、みんなで来て。案内する」






動物園から電車を乗り継ぎ、都心の大きなビルに4人は到着した。

「もしかして、ここ…?」

久世君は頷いた。

「うん。入口で通行証がもらえるから、ちょっと待ってて」

エントランスホールには、ビルの中だというのに大きな木々が色どりを添えている。案内盤をよく見るとこのビルには医療施設やショップ、カフェやスポーツジムまで入っているようだ。

久世君が受付に行ってしまうと、瑠衣、漆戸さん、戌井君の3人は、少し緊張して目を見合わせた。

「思ったより、規模が大きそう…」

「そうですね。思ったより…」

「ここ、会社が入ったビルというより、ホテルみたいだ…」




首から下げる来客用ネームタグを3人はもらい、身に着けてから全員で大きなエレベーターに乗る。

久世君は41階を押した。

「いきなり入って見学しても、大丈夫なの…?」

「構わないと思う。日曜日は基本的に自由だし」

「…?」



会社の入り口を通されると、まずは応接ブースに案内され、30代くらいの綺麗な女性が久世君に挨拶をしてから、瑠衣たちに名刺を差し出した。

「倉田と申します。透矢さんには、とてもお世話になっています」

「はじめまして。いきなり押しかけてすみません」

瑠衣が頭を下げると、漆戸さんと戌井君もそれに続いた。


「いいえ、今日は日曜日ですし。通常業務ではありませんので、構いませんよ」


柔和な雰囲気でいながらとても仕事が出来そうな倉田さんは、久世君と一緒に41階から、がらんとした会社の中を案内してくれた。

カスタマーサービス部門と、受注部門、人事・総務部門は41階。
商品ページ制作をしている部門、企画デザイン部門のフロアは40階。

各階に、ほんの2~3人ずつ、作業をしている人がいた。
平日は多分、たくさんの人が出勤しているのだろう。

久世君は主に、40階で仕事をしているのだそうだ。
企画デザインのパソコンの中を見せてもらうと、久世君がデザインした商品がたくさんデータとして管理されていた。

「平日は学校があるから、ここには土曜日と日曜日のどちらかに来るくらい。あとは自宅のパソコンでデザインしたりしてる」


「いつから、この仕事を?」


「父が冗談で、『デザインやってみるか?』って聞いてきたのが小学4年生の時。それ以来ずっと続けているから、もう7年はやってる」


「7年」


すごい長さだ。
学生を続けながら、出来るものなのだろうか。


倉田さんは微笑み、

「本当です。『アフローミア』は元々、透矢さんのお父様が始めた通信販売の会社で、元々は海外からの輸入ドレスを扱っていました」

と説明してくれた。

「お買い得価格でしたのでドレス以外の商品も買い手が急増し、会社も大きくなったのを機に、社長であるお父様が透矢さんにデザインをしてみないかと勧められたそうですよ」

久世君は、頷いた。

「好きだったから。絵を描いたり、デザインを考えるのが」

漆戸さんは、久世君に質問をした。

「『アフローミア』で販売している商品は、半分以上久世君がデザインしているというのは、本当ですか?」

久世君は、

「うん、そのくらいは作ってるかも」と答えた。

戌井君も、続けて彼に質問した。

「…アメリカに行ったのは、仕事と何か関係あるの?」

「うん。海外のデザイナー何人かに興味があると言われて、直接会ってきた。全部自分の勉強のため」




次は、倉田さんがエレベーターで上の階へ案内してくれた。


「42階へどうぞ」



42階は、商品を保管する倉庫になっていた。


「受注した商品は北海道の倉庫から出荷してる。広い撮影所も全部、今は北海道にある。この倉庫にある商品は制作中のものと、写真撮りが終わったばかりのもの、それから…新作」

鍵を開けてもらい、皆は入口から中へ、進んでいく。


その場所は、1000以上の色とりどりのドレス、アクセサリー、シューズ、小物などで、溢れ返っていた。


「透矢さんがデザインしたドレスは、この辺りにあります」


倉田さんが教えてくれた。


「すごい…!」



商品の数が多く、スケールが大きい。



そこには、今まで見たことが無い形の、色とりどりの美しいドレスが数え切れないくらいあった。



漆戸さんは、感動した様子で声を上げた。


「『アフローミア』の商品…。本物ですね」


斬新で楽しくて。

見ていて飽きなくて、綺麗で可憐で。
思わず手に取っていつまでも眺めてしまいそうな、デザイン。


楽しくて、ときめいてしまう。



「ドレスは最近始めたばかりで、まだまだ勉強中。今までずっと作っていたのは、こっち」

久世君は、瑠衣たちを倉庫の右奥に案内した。

「アクセサリー」

そこには、キラキラと輝く、ビジューがちりばめられた作品の数々があった。
可愛らしい動物や植物をモチーフにしたものが多い。

「こちらが『ラ・ヴェロス』ですね」

「ドレスとアクセサリー、どっちを作るか迷っていたけど。決められないから両方、続けてみることにした」

どこを探しても、瑠衣がもらったクリップやイヤリングなどの白猫のアクセサリーは無かった。

彼は、瑠衣の様子に気がつき、耳元のイヤリングにそっと触れた。


「これは、瑠衣だけに作ったものだから。世界に1つしかない」


瑠衣は、いきなり触れられた驚きのあまり顔が急に赤くなり、動悸が激しくなってしまった。






…駄目だ、こんな気持ちになっては。










…駄目なのだろうか。













今の自分が、この人を、好きになっては駄目なのだろうか。


















記憶が戻っていない、今の自分が。
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