コール・ミー!!!
目が覚める。

朝の光が、ガラスドームを優しく包みこんでいる。


瑠衣は意識がはっきりしてくると同時に、顔が赤くなってくるのを感じた。


目の前に、トオヤの美しい寝顔がある。



身動きが取れないくらいしっかりと、彼の腕は瑠衣の体を抱きしめたままだった。





「…!!!」





急に、また、ドキドキドキドキしてしまう。





今、何時だろう。






慌てて携帯電話の時計を確認する。
まだ、朝の4時半だった。



少しだけ、ホッとする。



…朝まで一緒に、寝てしまったのだ。
誰かにバレたら、大変かも。




あれ以上何も無かったとはいえ、
自分でも、この行動には驚いてしまう。




「もうお嫁にもらってくれないとダメだよ、トオヤ」



こんな事しちゃったんだから。



瑠衣は眠っているトオヤに向かって笑いながら冗談を言い、彼の右頬にそっとキスをした。




すると、瑠衣を抱き締める彼の腕の力が、少しだけ強くなった。



「…!」





彼は目を開け、瑠衣の目をじっと見つめ、


「じゃ、お嫁に来て。瑠衣」


と言った。



瑠衣は、心臓が飛び出るほどびっくりした。


「…起きてたの?!」



また、騙された!!!




彼は、くすくすと声をあげて笑い、


「キスは、こっちがいい」


瑠衣の唇にゆっくりと、キスをした。
そして、耳元で


「瑠衣。俺と、結婚してくれる?」


と、艶めいた声で、囁いた。







「はい」







心臓の音が、うるさい。


瑠衣は自分でも驚くほど、はっきりと返事をした。






「約束」






彼はそう言うと、もう一度唇にキスをして、瑠衣の首筋に顔を埋めながら、




「愛してる」





と囁いた。






































「記憶が、戻った…?」

朝食が済んで食後のコーヒーを飲んでいる時に、瑠衣は全員の前で嬉しい報告を済ませた。

楓、葵、桃花、望月さんの4人は、飛び上がるように喜んでくれて、立ち上がって瑠衣の体を抱きしめてくれた。


「良かった!!良かったね!!ルイルイ」


桃花が、涙を浮かべて瑠衣の手を握り締めた。


「最近の記憶は、ちゃんとあるの?」


楓は喜びながらも心配そうに聞くと、瑠衣は頷いた。


「うん。ぼんやりとだけど、退院して学校に戻ってきた時からの記憶も、ちゃんとあるの」


トオヤの会社に雅や戌井君と一緒に行った時の記憶も。


葵が、ホッとしたように、瑠衣の肩に手を乗せた。

「瑠衣、おかえり!!」


望月さんも、喜んでくれた。


「良かったね、佐伯さん」


瑠衣は嬉しくなり、皆に向かって満面の笑みを見せた。




「心配かけてごめんね。もう、大丈夫だと思う」






ドレス作りの作業に入る前に、心配してくれていた人全員に、電話やメールで連絡を入れる。

理衣、両親、雅、泉美、滝君、戌井君。

皆はそれぞれ本当に喜んでくれて、瑠衣におめでとうと返事をくれた。




不思議な気分である。


退院した直後から昨日まで存在していた自分は、一体どこにいるのだろう?

自分の心の開かずの引き出しに入っていた鮮明な記憶は勢い良く、外に出たいと叫びながら全部、溢れ出てきた。

それと同時にトオヤを『久世君』と呼んでいた彼女は、心の中のどこかに、また隠れてしまったようだ。

ここまで頑張ってくれていた彼女は、あくまでも客観的に、苦笑いしたり、呆れたりしながら、心の奥から自分自身の行動をただ今は、見守ってくれているのかも知れない。


でも。
ガラスドームでトオヤに自分からキスをした時だけは、彼女と自分の気持ちが、完全に重なった気がした。


ありがとう。
ちゃんと、気づかせてくれて。


トオヤがいなくては、もう自分が自分ではいられないという事を。
















瑠衣は、自分の変化に気づいていた。





工場で、皆でドレス製作の作業をしている時。

複数の、アクセサリーの図案を考えている時。

ミーティングをしている時。

パソコンに向かっている時。

どんな時でも一番最初に、トオヤの真剣な眼差し、表情、仕草などを、思わず目で追ってしまう。






本当に作りたい物を考えている時の彼の真剣な姿は、なんて素敵なんだろう。




無表情には変わりないけど、どこかすごく、楽しそうで。


心の中の宝物を、探し出して取り出そうとしている様な。


ワクワクする何かを、どこまでも追い求めているかの様な。


時間がいくらかかっても、決して妥協を許さないといった様な。



そんなプロの表情。




ああ、1番好きだなあ、彼のこの姿。




誰にも、見せたく無くなってしまう。




独り占め、したくなってしまう。
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