コール・ミー!!!
シルク・シャンタン
合宿を始めてから2週間が経過して、2着ずつ作っていた皆のドレスは、完成に近づいていた。

細かいアクセサリー類は、トオヤの協力を得たお陰で、思いがけず沢山の完成品が出来上がっている。


望月さんは、楓、桃花、葵を朝食後に自室に呼び出し、ある事を提案をした。

「…それはいいわね」
楓はニヤリと笑った。

「やるからには、徹底的にやろ」
葵も、「面白そうだ」と、誰も聞いていないのに声を低くした。

「そうね、これまでのお礼も兼ねて…」
桃花も、珍しく甲高い声を出さず、低めの声でこう言った。

瑠衣を抜かした手芸部メンバー全員は、ある朝こうしてコソコソと密談を交わし始めた。













「帰る?!」

瑠衣は、楓達がいきなり自分をリビングに呼び出して突然こう言い出した事に対し、少しびっくりしてしまった。


「うん。もう大体ドレスやアクセサリー製作の目処はついたし。これ以上ここでお世話になり続けるのも、何だか申し訳ないしね。今日の夕方の飛行機で私達、帰ろうと思う」

楓が言うと、瑠衣は

「じゃあ、私も一緒に…」

と言い出したが、全員が首を横に振った。


『あんただけ、ここに残りなさい!!』



「…はい」



瑠衣は、皆の迫力に圧倒された。




「佐伯さん」

望月さんが、瑠衣に向かって話し出した。

「私、あなたにお礼がしたいの。こんなに楽しい合宿の思い出が作れたのも、佐伯さんが私を手芸部に戻してくれたから」


「…望月さん…」


「モッチでいい」


「…モッチ」


ずっと、こう呼んでみたかった。


桃花が話を続けた。


「モッチがね、私達だけ先に帰る前に、ちょっと瑠衣に魔法をかけたいって」

「ま、魔法…?」









その日の夕食後。

急な仕事が入って飛行機で東京に行っていたトオヤは、帰って来ると自室のドアの床の隙間に、白い封筒が差し込まれているのを発見した。


封筒を開封し、中に入っているカードを読んでみる。


『久世君、2週間、本当にお世話になりました!合宿、すごく勉強になって楽しかったです!!堀江さん夫妻にはご挨拶できたけど、久世君に直接お礼が言えず、ごめんなさい。私達からプレゼントがあるので、受け取って下さいね。また新学期に、学校で。※手芸部一同※』



トオヤは驚いて、自室のドアを開けた。


『p.s お幸せに!』


部屋の中には、真っ白なウエディングドレスを着た瑠衣が、恥ずかしそうな表情で、木目調の椅子に座っていた。


ふんわりと広がる白いティアードスカートが華やかに、部屋全体を輝かせている。


ドレスは、モッチがこの2週間で完成させた2着のうちの、1着だった。


楓が作ったオーガンジーのヴェール越しにこちらを見つめ、桃花が作った薄いピンクと緑色の小さな花で作られたブーケを手に持っている瑠衣は、メイクを施された綺麗な顔が、どんどん赤くなっていく。


「……」


トオヤは部屋のドアを後ろ手で閉めた体制のまま、棒立ちになって瑠衣を見つめ続けた。

瑠衣の髪型は、ヘアメイクを得意とする葵がふんわりと可愛らしく結い上げ、ブーケと同じ花で可憐に飾ってあった。


耳には白猫ビジューの、キラキラと輝くイヤリング。


靴だけは瑠衣持参の白いパンプスだったが、白猫のシュークリップが輝きを放っているため、ドレスの華やかさに負けていなかった。


「あ、あの…」


トオヤが無言で動かないまま1分以上は経過してしまったため、さすがに恥ずかしくて耐えられなくなり、瑠衣が先に言葉を発した。


「皆が、着せてくれたの。…どうかな」



トオヤは少し緊張した様子で、初めて返事をした。



「可愛い…。すごく」



瑠衣は照れてしまい、少し目を伏せた。



「…ありがとう」



トオヤはそんな瑠衣の表情を見て、息を飲んだ。



「誰の、花嫁…?」






少しだけ、震える声。







「…え?」








「誰の花嫁…?」







トオヤは瑠衣の目を、射すくめるように見つめた。







「…教えて?…瑠衣」








小さな声だがはっきりと、有無を言わさず答えを迫られる。







「…トオヤの」






「…」







「トオヤの、花嫁」









トオヤは瑠衣に聞いておきながら、少し顔が赤くなった。







「うん。じゃ…こっちに来て、瑠衣」








瑠衣は思わず、少し笑ってしまった。






「…どうして?」






「びっくりし過ぎて、動けない」






トオヤも笑った。







瑠衣は少し緊張しながら、トオヤのすぐ側まで近づいた。








「俺の花嫁だという証拠、見せて」










すぐ近くに、トオヤの顔。









「証拠?…どうやって?」









瑠衣の首筋に、彼の指がそっと伸びる。








「キスして、瑠衣」








瑠衣は、目を見開いた。







そして、
これ以上経験した事が無いくらい、恥ずかしさで一杯になりながら、









少し背伸びをして、そっと、
彼の唇に、自分からキスをした。














その瞬間、















息が出来ないくらいきつく、彼に抱きすくめられた。
















「やっと、瑠衣が来てくれた。…『シルリイ』に頼まなくても」















彼は瑠衣の両耳に着けてあるイヤリングに触れると、













10秒以上は、無言で瑠衣を見つめてから、











また、止まらないキスを始めてしまった。
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