コール・ミー!!!
お化け屋敷の中は狭くて危ないので、順番に一人ずつ入らなくてはならなかった。
泉美、雅、瑠衣の順番で中に入る。
中は真っ暗で、何も見えない。
音響担当がおどろおどろしい効果音を大ボリュームで鳴らしているため、お互いの声すらきちんと聞こえない。
迷路のような道を手探りで進んでいくと、それぞれの場所に立っているお化け担当が白い服を着て、中に入った人を容赦なく驚かす。
叫び声が、前方から聴こえてくる。
瑠衣は、今までお化け屋敷の類を怖いと思った事が一度も無かった。
どのような雰囲気と効果音を出し、
お化けとはどういった動きをすれば、
誰もがゾクゾクと怖がるのかが知りたくて、
ワクワクしながら、楽しんで中を観察してしまうのだ。
一人目のお化けは、多分安西君。
無難に、適当に、少しだけ近づいて、声をあげて怖がらせようという雰囲気が伝わってくる。
…全然怖くない。
少し進むと、ちょっとだけ猫背で、遠慮がちな様子で、もう1人のお化けが瑠衣に近づいて来る。
このお化けはきっと、戌井君。
…お疲れ様。
先を歩いていた雅はちゃんと、お化けの正体がわかったのかな。
そろそろ、迷路も終盤か。
あっという間に終わりそうになる迷路の最後で、瑠衣は良く知る気配を感じた。
このお化けは、トオヤ。
彼は、瑠衣に近寄って来なかった。
…まだ怒っているからだろうか。
瑠衣は思い切って、
暗闇の中、最後のお化けに自分から抱きついた。
「…!」
お化けは、一瞬息を飲んだ。
だけど、声は発さない。
瑠衣は、彼にしか聞こえない声で、こう言った。
「今夜、私の夢に出てきてよ」
瑠衣は暗闇の中、最後のお化けに、こんな無茶なお願いをした。
「トオヤじゃないと、嫌だから」
そのお化けは1度だけ、瑠衣をぎゅっと、きつく抱きしめた。
そして、
「出てあげない」
と返事をした。
「…」
「瑠衣から、言わないと」
「…何を?」
「キスして、って」
お化けはそう言うと、瑠衣の体をそっと離して暗闇の中、どこかへ行ってしまった。
美術室を借りての手芸部の写真館は、大盛況だった。
泉美の助けを借り、演劇部で過去に使っていたという衣装を沢山貸してもらったため、華やかなドレス以外にも男子生徒が着用できる海賊、王子、執事などの衣装が増え、3箇所の撮影スペースは順番待ちの列ができた。
みんな、とても楽しそうである。
自分で衣装やアクセサリーをコーディネート出来る楽しさと自由度が人気を呼び、瑠衣達手芸部メンバーは来てくれた人達を案内しながら、写真を撮るのに大忙しだった。
楓が気にしていた後輩たちへのアピールも功を奏し、もしかすると入部希望者が殺到する…?かもしれない。
「お姉!」
理衣が、手芸部の写真館入口に現れた。
珍しく自宅以外の場所で会った妹を、新鮮な思いで瑠衣は見つめた。
今日はジャージではなく、マニッシュなブルーのレースブラウスと白いストレートデニムのスタイルで、とても可愛い。
外出嫌いな妹が、電車を乗り継いで瑠衣の高校の文化祭に来てくれたことに、驚きと感動を隠せない。ずっと並んでくれていたらしく、ようやく入り口までたどり着いたようだ。
「いらっしゃい!理衣」
理衣は頷き、
「さっき、トオヤに会った」
と教えてくれた。
「…そう」
「…どうしたの?元気ない」
「…最近トオヤとあまり話せてないの。…怒らせちゃって」
今だって、どこにいるのかわからない。
「これからイタリアに行くんだって」
「…え?」
「知らなかった?1週間は戻らないみたい」
こんな大事なことを、理衣にだけは話してあるのか。
少し、悲しくなってしまう。
理衣は、しゅんとした瑠衣の表情を見て、ちょっと笑った。
「はい、お姉」
「…?」
「『シルリイ13』。最新作」
理衣は白い携帯ケースを、瑠衣に差し出した。
ケースの右下に、『シルリイ』のイラストがついている。
「トオヤに頼まれて、お姉のために私が作った」
「…え?」
トオヤに?
瑠衣は、携帯ケースを受け取った。
…。
『瑠衣から言わないと』
…。
『キスして、って』
…。
「ねえ、なに赤くなってるの、お姉」
「え?」
「相変わらずの変態だね。…あ、私の番だ。行くよ」
「…え?」
理衣に手を引っ張られ、写真館の一番奥のブースに入る。
桃花が、中へと案内してくれた。
「桃花、私仕事中なんだけど、着替えていいのかな…?」
「今、モッチが戻ってきたから大丈夫じゃない?それより、妹さん?はじめまして~~!やっぱり、ルイルイにそっくり~~!!」
「はじめまして」
理衣は、桃花と葵に軽く挨拶をした。
葵は、理衣を見ると目を輝かせた。
「噂の、双子の妹さん?!久世君から頼まれてるんだ、瑠衣と一緒に用意したドレス着て、写真撮っておいてほしいんだって」
トオヤが、頼んだ?
「私、何も聞いてない」
…トオヤと、しばらく話せていないから。
理衣が、瑠衣の腕を引っ張った。
「ほら着替えるよ、お姉」
試着ブースに理衣と一緒に入り、瑠衣はあっと驚いた。
そこには見たことの無いドレスが2着、準備されていた。
泉美、雅、瑠衣の順番で中に入る。
中は真っ暗で、何も見えない。
音響担当がおどろおどろしい効果音を大ボリュームで鳴らしているため、お互いの声すらきちんと聞こえない。
迷路のような道を手探りで進んでいくと、それぞれの場所に立っているお化け担当が白い服を着て、中に入った人を容赦なく驚かす。
叫び声が、前方から聴こえてくる。
瑠衣は、今までお化け屋敷の類を怖いと思った事が一度も無かった。
どのような雰囲気と効果音を出し、
お化けとはどういった動きをすれば、
誰もがゾクゾクと怖がるのかが知りたくて、
ワクワクしながら、楽しんで中を観察してしまうのだ。
一人目のお化けは、多分安西君。
無難に、適当に、少しだけ近づいて、声をあげて怖がらせようという雰囲気が伝わってくる。
…全然怖くない。
少し進むと、ちょっとだけ猫背で、遠慮がちな様子で、もう1人のお化けが瑠衣に近づいて来る。
このお化けはきっと、戌井君。
…お疲れ様。
先を歩いていた雅はちゃんと、お化けの正体がわかったのかな。
そろそろ、迷路も終盤か。
あっという間に終わりそうになる迷路の最後で、瑠衣は良く知る気配を感じた。
このお化けは、トオヤ。
彼は、瑠衣に近寄って来なかった。
…まだ怒っているからだろうか。
瑠衣は思い切って、
暗闇の中、最後のお化けに自分から抱きついた。
「…!」
お化けは、一瞬息を飲んだ。
だけど、声は発さない。
瑠衣は、彼にしか聞こえない声で、こう言った。
「今夜、私の夢に出てきてよ」
瑠衣は暗闇の中、最後のお化けに、こんな無茶なお願いをした。
「トオヤじゃないと、嫌だから」
そのお化けは1度だけ、瑠衣をぎゅっと、きつく抱きしめた。
そして、
「出てあげない」
と返事をした。
「…」
「瑠衣から、言わないと」
「…何を?」
「キスして、って」
お化けはそう言うと、瑠衣の体をそっと離して暗闇の中、どこかへ行ってしまった。
美術室を借りての手芸部の写真館は、大盛況だった。
泉美の助けを借り、演劇部で過去に使っていたという衣装を沢山貸してもらったため、華やかなドレス以外にも男子生徒が着用できる海賊、王子、執事などの衣装が増え、3箇所の撮影スペースは順番待ちの列ができた。
みんな、とても楽しそうである。
自分で衣装やアクセサリーをコーディネート出来る楽しさと自由度が人気を呼び、瑠衣達手芸部メンバーは来てくれた人達を案内しながら、写真を撮るのに大忙しだった。
楓が気にしていた後輩たちへのアピールも功を奏し、もしかすると入部希望者が殺到する…?かもしれない。
「お姉!」
理衣が、手芸部の写真館入口に現れた。
珍しく自宅以外の場所で会った妹を、新鮮な思いで瑠衣は見つめた。
今日はジャージではなく、マニッシュなブルーのレースブラウスと白いストレートデニムのスタイルで、とても可愛い。
外出嫌いな妹が、電車を乗り継いで瑠衣の高校の文化祭に来てくれたことに、驚きと感動を隠せない。ずっと並んでくれていたらしく、ようやく入り口までたどり着いたようだ。
「いらっしゃい!理衣」
理衣は頷き、
「さっき、トオヤに会った」
と教えてくれた。
「…そう」
「…どうしたの?元気ない」
「…最近トオヤとあまり話せてないの。…怒らせちゃって」
今だって、どこにいるのかわからない。
「これからイタリアに行くんだって」
「…え?」
「知らなかった?1週間は戻らないみたい」
こんな大事なことを、理衣にだけは話してあるのか。
少し、悲しくなってしまう。
理衣は、しゅんとした瑠衣の表情を見て、ちょっと笑った。
「はい、お姉」
「…?」
「『シルリイ13』。最新作」
理衣は白い携帯ケースを、瑠衣に差し出した。
ケースの右下に、『シルリイ』のイラストがついている。
「トオヤに頼まれて、お姉のために私が作った」
「…え?」
トオヤに?
瑠衣は、携帯ケースを受け取った。
…。
『瑠衣から言わないと』
…。
『キスして、って』
…。
「ねえ、なに赤くなってるの、お姉」
「え?」
「相変わらずの変態だね。…あ、私の番だ。行くよ」
「…え?」
理衣に手を引っ張られ、写真館の一番奥のブースに入る。
桃花が、中へと案内してくれた。
「桃花、私仕事中なんだけど、着替えていいのかな…?」
「今、モッチが戻ってきたから大丈夫じゃない?それより、妹さん?はじめまして~~!やっぱり、ルイルイにそっくり~~!!」
「はじめまして」
理衣は、桃花と葵に軽く挨拶をした。
葵は、理衣を見ると目を輝かせた。
「噂の、双子の妹さん?!久世君から頼まれてるんだ、瑠衣と一緒に用意したドレス着て、写真撮っておいてほしいんだって」
トオヤが、頼んだ?
「私、何も聞いてない」
…トオヤと、しばらく話せていないから。
理衣が、瑠衣の腕を引っ張った。
「ほら着替えるよ、お姉」
試着ブースに理衣と一緒に入り、瑠衣はあっと驚いた。
そこには見たことの無いドレスが2着、準備されていた。