コール・ミー!!!
久世君は、サル山の手すり両腕を乗せたまま、瑠衣を見つめた。


「友達?」


ついに、
言ってしまった。



「俺と?」




でも、もう、

後戻りする気は無い。




「うん」



急に、補足したくなった。



「いずれは恋愛対象として見て欲しいとか、そういうヘンな意味じゃ無いから安心して。ただの友達になりたいだけ」


ちょっとドキドキしちゃうけど。
久世君、カッコ良すぎるから。


「どうして?」





どうしてかな。
まだ頭の中、整理中だけど。






「色々な話をしてみたいの」





どうか、妙な意味じゃ無い事だけは、ちゃんと伝わって欲しい。




サル山に視線を戻しながら、落ち着かないまま返事を待つ。




「友達って、話をするだけでいいの?」




「え?」





「今まで、友達いた事が無かったから」




「…」



え?




「1人も?」





「うん」





…何故?





「いじめられてたから」








…。
嘘でしょう。




「久世君が?…本当?」



「嘘じゃない」




久世君の表情に、少しだけ暗い影が落ちたような気がした。



信じられない。



ただならぬ容姿の持ち主なのだから、人気者だったのだろうと、思っていた。


また、勝手に思い込んでいた。



「どうして久世君が…」




言葉が出て来なくなる。



「話すの、下手だし」



久世君は、クルッと後ろを振り向き、サル山に隣接しているフードコートを指差した。



「お腹空かない?」



「あ…。そうだね」



時計を見ると、12時を回っていた。
瑠衣は、久世君に言った。



「お昼食べようか」



彼は、小さく頷いた。




「うん」




すぐ近くにあるフードコートに入って注文を済ませ、2人で窓際の席に座ってから、彼は続きを話し出した。



「寂しくは無かった、と思う」




彼は、スマートフォンで小さな頃の自分を見せてくれた。



そこに写っていたのは、驚いたことに、コロッと太った男の子だった。足がプニプニムチムチとしていて、現実にこんな子がいたら、触りたくなってしまうだろう。

可愛い!!


「この子、久世君?」


「うん」



どことなく、久世君の面影はある。薄茶色の柔らかな髪、色素の薄い瞳の色。


写真の中の彼は、6歳くらいだろうか。
今の彼と同じ。
無表情のままこちらを見ていた。


「体重はまわりの子の倍くらいあったから、太っていることをネタにいじめられてた」


いきなり、手元にあるブザーが鳴り響いた。
注文した焼きそばとお好み焼きが出来上がった合図だった。


2人で昼食をカウンターに取りに行き、席に戻って会話を再開する。


「辛かった…?」


久世君は、首を横に振った。


「あまり気にはしていなかった。というか、その頃はいじめられてた感覚が無かった」


久世君は、焼きそばを食べ出した。


何を食べても、不思議と絵になる人だ。
姿勢がいいからだろうか。
焼きそばが上品な食べ物に見えてくる。


「中学に入った途端背が伸び出して、今くらいになったけど」


「うん」



「今度は、目立つから気に入らないとかで、知らない先輩に呼ばれて殴られたり蹴られたりした」


「…そうだったの」



許せない。
瑠衣は、心の奥が苦くヒリついた。



「最初は腹が立ったけど…」



彼は窓の外に見えるサル山を眺めながら水を飲み、こう言った。


「無駄だから、考えるのをやめた」


わかるような気がする。
その気持ち。


話が通じない人間は、
いつまでも永遠に、通じない。
そんな人間に怒ったって、まるで意味がない。


そういう事だってある。



相手にしてはいけない人間は、存在する。
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